ロハス・メディカルvol.115(2015年4月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2015年4月号です。


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LOHASMEDICALVIEW進医療会議で、費用対効果を検討する場として厚労省が挙げた中央社会保険医療協議会は今年になってようやく具体的検討を始め、なおかつ粒子線治療を検討対象にしませんでした。とにかく色々と話が違うのです。 元々は頭頸部外科医である海老原敏・国立がんセンター東病院名誉院長(重粒子線がん治療ネットワーク会議委員長)は「手術だったら、問題になるのは安全性だけで費用対効果なんて誰も言わないのに、あまりにダブルスタンダードです。患者さんにとって何が最善かで判断すべきでしょう」と憤ります。 もちろん医療保険財政が厳しいのも間違いないところで、何でもかんでも健康保険で面倒をみられないというのも分かります。ただ、現在の例えば314万円を前提に費用対効果が悪いと判断するのはナンセンスです。実際、内視鏡手術支援ロボット「ダ・ビンチ」を使った前立腺がんの全摘手術に健康保険が適用された時、それまでは200万円以上の費用を徴収していた施設もあったのに、保険で認められた費用(診療報酬の加算額)は54万2千円でした。重粒子線治療に関しても、費用対効果の見合う値段で保険を認めればよいだけのことです。 患者・国民からすれば当然過ぎるこの議論が、実はパンドラの箱です。 まず、本来ならば保険適用を望んで当然のはずの粒子線治療施設の関係者が、この議論を嫌がります。 粒子線治療施設は、100億円前後の初期投資を必要とし、1件あたり300万円以上収入のある前提で事業計画が立てられているため、保険適用されて急に単価が下がると、計画が狂ってしまって施設の存亡に関わるというのです。 経済の常識からすると、価格が下がれば需要も増え、必ずしも経営に悪影響ばかりとは限らないはずです。しかし、厚労省が粒子線として一緒くたに扱おうとしている炭素イオン線と陽子線のうち、特に陽子線で、この法則が当てはまりません。 この連載でも過去に説明したように、活性酸素を発生させるなどの間接効果に多くを頼る陽子線は何十回にも分けて照射を繰り返す必要があり、かなり早い段階で治療件数が施設の上限に達してしまい、需要が増えても簡単に治療人数を増やすことができないのです。 一方の炭素イオン線は、ビームががん細胞のDNAを断ち切る直接効果で威力を発揮するので、1回ごとの照射線量を増やし、その分の照射回数を減らしていくことが可能です。実際、肺がんの一部で、18回照射から治療試験を始めたのが、今では1回照射になっているなど、どんどん期間短縮されています。また、これも説明してきたように治療技術も改善が進んで効率的になっています。患者が集まり、スタッフさえ確保できれば、治療件数を2倍や3倍へと増やすことは容たやす易いのです。 そもそも陽子線は、米国でもずっと研究が続けられてきていますので、日本が世界を圧倒的にリードしているわけではありません。また、陽子線なら治療できるけれど炭素イオン線を使えないというがんは理論的に存在しません。逆の、炭素イオン線なら効果を期待できるけれど陽子線では期待できない、というがんはあります。そろそろ粒子線として一緒陽子線施設が困る6LOHASMEDICAL


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