ロハス・メディカルvol.116(2015年5月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2015年5月号です。


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LOHASMEDICALVIEW飲んでいる薬の半分は効くのか効かないのか怪しい薬です。下剤も本当に必要かどうかは甚だ怪しいと思います。肩凝りや腰痛に対しては、何らかの体操や運動を勧めた方が、はるかに効果が上がるはずですし、運動すれば便秘も改善するかもしれません。彼女に必要なのは、薬ではなく、家庭菜園なのです。 多剤投与には、この症例のように、効果があるかどうか分からない対症療法薬が大量に入っている場合と、実際に重篤な疾患が複数あってやむを得ず10種類を超えてしまっているものとがあります。例えば、糖尿病に虚血性心疾患を合併し、さらに心不全を繰り返している。その上、慢性関節リウマチにもなってしまった、という場合などは、多剤投与は容易に起きます。 しかし、そういったやむを得ないとも言える多剤投与例でも問題がないかと言えば、あるのです。薬剤同士の相互作用の問題です。多くの薬剤は肝臓や腸管壁で代謝を受けて体循環に入ります。そして薬物を代謝する酵素は有限で、しかも種類も薬の数ほど多くはないのです。つまり、同じ酵素で分解される薬剤が数多く存在します。また、開発時に薬剤の効果を判定する場合には、相互作用を避けるために、他の薬剤の併用をできるだけ避けます。10種類もの薬を飲んだ上にさらに追加で効果があるかについては臨床試験として成り立たず、行われていません。つまり元々、多剤投与時にどれほどの量の薬剤が血液に取り込まれるのか、作用や副作用がどのように変わるのか正確には分かっていないのです。 また、副作用も問題です。ある方は、私たちの所に認知症という触れ込みで紹介され、私たちもそのことを疑わずに在宅医療で数年間フォローしていました。ある時、2年以上痙けいれん攣がないので、抗痙攣剤はすべて中止してみようということになりました。驚いたことに、それだけで彼女は店番をできるまでになったのです。これまで認知症だと思っていた症状は単なる抗痙攣剤による意識変容だったのです。カナダの健康情報協会が出した2013年のレポートによれば、薬剤の副作用によって1年間で全高齢者の200人に1人が入院しています。 外来での大きな稼ぎ頭の一つである高脂血症にしても、内科医という商売は、まじない師に似ています。NIPPONDATA80を見る限り、合併症がない日本人女性にスタチンを飲ませる意味はほとんどないように感じます。それでも、医師は外来に来た女性に「将来心筋梗塞になるかもしれませんよ」と不安をあおり、定期的に外来受診を勧め、食事制限をし、だめなら、ありがたいと信じている薬を処方します。だるいと言われれば、効果がないかもと思いつつ、お守り代わりのビタミン剤を渡すのです。人間を研究している宇宙人がいたら、大した病気でもないのに患者の不安をあおり、何の反省もなく15種類もの薬を平気で処方し続けている医師と、まじない師とを見分けることは困難でしょう。 私たち医師は、漫然と処方するのではなく、常に処方を見直す必要があります。調剤薬局の薬剤師にしても、せっかくお薬手帳を配っているのですから、多剤処方についてきちんと医師に意見を述べ、この問題についてのイニシアティブを取るぐらいの意欲は見せてほしいものです。そして、患者さんたちにも薬の中にはあまり効かないものが多いのだときちんと伝え、多剤投与を許さない風土を作るのも必要なことでしょう。相互作用は不明認知症じゃなかった3LOHASMEDICAL


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