ロハス・メディカルvol.116(2015年5月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2015年5月号です。


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 ヒトの細胞は動物細胞です。細菌の細胞との違いをうまく利用すれば、やっつけたい細菌の細胞にだけ働く薬を創れますよね。実際そういう抗菌薬があります。ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系などの抗菌薬は、動物細胞にはない細胞壁に作用します。 細菌の細胞壁は、主にペプチドグリカンという物質で出来ています。ペプチドが架橋して網目構造を作っているのですが、この架橋を妨げるよう抗菌薬が働くのです。その結果、細菌は細胞壁を作れず細胞の形も保てなくなります。 細胞壁には、2タイプあります。ニュースなどで耳にされたことがあるかもしれませんが、「グラム陽性」と「グラム陰性」です。色素で染めた時(グラム染色)の発色が異なるので、このような呼び方がされています。抗菌薬によっては、どちらかにだけ効きやすいものがあります。 細胞壁以外を狙う抗菌薬もあります。それらはタンパク質合成やDNAが複製される過程などを狙っています。タンパク質を合成する際には、細菌もヒトの細胞もリボソームを利用するのですが、細菌とヒトではリボソームの種類が異なります。こういった違いを見つけて、細菌を選択的にやっつける薬が開発されているのです。 細菌も生き物なので、薬に菌薬が細胞膜の中に入ってこないようにガードし、入ってきたとしても排出する能力も身に着けていきます。細菌は素晴らしい逞たくましさで生き延びようと頑張るのです。両者の攻防戦はいたちごっこになります。 また、抗菌薬が効いた細菌は死に、効きにくい菌が生き残るため、必然的に耐性菌が増えます。今では、VRSAなどのように既存の薬が効かない耐性菌も現れるようになってしまいました。いくら科学技術が進歩しても、どんどん抗菌薬を開発できるものではありません。 耐性菌を増やさないよう、適正な抗菌薬の使い方が求められており、医師は抗菌薬の多用をやめ、必要な時に必要な抗菌薬を処方するようになりました。服用する側の私たちも、処方された抗菌薬を勝手な判断で服用を中止すると、中途半端な抗菌になって耐性菌を出現させてしまう可能性があります。 敵は変化する生き物です。処方も服用も適正に行う必要があるのです。LOHASMEDICALVIEWしかし敵も変化する細胞壁が狙い目毎回、本文と関係のある本をご紹介していきます。深井良祐著秀和システム2015年中西貴之著ソフトバンククリエイティブ2013年もっと知りたい方に図解入門よくわかる最新抗菌薬の基本と仕組みカラー図解でわかる細胞のしくみ人間も動物も植物も、生物はすべて細胞の集まり!!負けないよう少しずつ変化していきます。例えば、細胞壁の合成を妨げる抗菌薬に対しては、その薬を分解する酵素を作るようになったり、妨げられた方法ではなく別の方法で細胞壁を作る能力を獲得したりします。また、リボソームの形を変えて、薬が働けないようにしてしまいます。さらに、抗ROBUSTHEALTH


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