ロハス・メディカルvol.118(2015年7月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2015年7月号です。


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 日本でも、厚労省研究班が生殖補助医療による出生児に関する大規模調査を行い、顕微授精・胚盤胞培養(長期体外培養)・胚盤胞凍結保存の人工操作を加えるほど出生時体重が増加することを報告しています(図3)。これは、ゲノムインプリンティング異常(遺伝子の働きを調整する仕組みに異常が出る病態)による胎児過剰発育である可能性が指摘され、先天異常を専門とする医師らも顕微授精や胚盤胞培養のリスクを危惧する研究成果を何度も報告しています。 出生児のDNAは、精子と卵子から半分ずつ提供されています。人間の体を構成する細胞には、遺伝情報を正確に伝達するため、少しならばD NAが損傷しても細胞自身が持っているDNA修復酵素によって修復される機構が備わっています。ヒト卵子にはこの機構が存在しますが、ヒト精子は造られる過程でDNA 私が医師になった頃、生殖(受精)の研究においては卵子にばかりに目が向けられており、精子に至っては全く注目されていませんでした。逆に私は、「ヒト精子」に不思議を感じて深い関心を持ち、臨床精子学の専門家をめざしました。それから約30年経った今でも残念ながら、生殖補助医療に携わる婦人科医や泌尿科医の中で、臨床精子学(ヒト精子)を専門とする者が極めて少ない状況は変わっておりません。そのような背景も手伝い、顕微授精の技術が登場したことにより、「精子の問題はほぼ解決されました」という考え方が定着し、ますます精子の研究が遅れる原因になりました。 実は、欧米では10年程前から顕微授精により出生した児の先天異常率が自然妊娠に比べて有意に高いことを述べた論文が多数報告されています。修復機構を失います。その結果、射精された精子の一部にDNA損傷精子が混在するわけです。その頻度は個人差が大きく、損傷程度も精子ごとに大きく異なります。精子のD N A損傷は、卵子に侵入した後に卵子が持っているDNA修復酵素によって修復されますが、一部は未修復のまま、もしくは不完全修復のまま残存します。 ヒト精子だけに存在するこの問題点が、不妊治療従事者の間で十分に認識されないまま顕微授精が汎用されている現状が、顕微授精児へのリスクにつながっていると考えられ、日本ではこの点に関する認識が低い現況にあることが何よりも問題です。現段階では、精子DNA損傷、顕微授精、先天異常の因果関係が明確に証明されたわけではありませんが、命を造り出す生殖医療では疑わしきは排除するに尽きます。 ヒト精子は極めて特殊な細胞で、正常の精子形成能力を備える男性でも一定の比率でDNA損傷精子が産生されます。私の長年の研究からは、造精機能障害では、単に精子産生量(精子数)の減少のみならず、精子機能(精子の質)に様々な異常を伴うことが明らかになりました。LOHASMEDICALVIEW図3大規模調査を伝える新聞記事出生児の異常率が高い精子技術の出遅れ【寄稿】


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