ロハス・メディカルvol.118(2015年7月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2015年7月号です。


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と「精子技術の出遅れ」を招き、そのことが「顕微授精ならば精子の状態が悪くても1匹でも精子がいれば妊娠可能である」という理解につながり、穿刺する精子の安全性に関する検証が不十分なまま顕微授精が普及したのです。現在でも穿刺する精子の選別・評価に明確な基準はなく、運動精子=良好精子という認識が定着し、出生児は当然健常であると考えられ、これまで先天異常をはじめとするリスクに目が向けられることは極めて少なかったのです。 問題の所在をご理解いただいたところで、本稿の結論を申し上げます。生殖補助医療のリスクマネジメントとして「できるだけ顕微授精を避ける、もしせざるを得ない時は穿刺注入する精子の品質管理を徹底する」ことを提唱したいと思います。 「どのようにDNAが損傷 しかし、ほとんどの不妊治療施設では、精子数、運動率、頭部形態等を主要な指標として精子側の妊にんよう孕力(奥様を妊娠させられる精子の能力)を評価してきました。 一般の顕微授精では、顕微鏡観察により泳いでいて、できるだけ頭部の形態が楕円形である精子を良好精子として選別、穿刺しますが、良好精子とされている運動精子の中にもDNA損傷したものが含まれる場合はあるということです。 先述したように、顕微授精に必要な精子数は1匹でよく、容易に受精させられるというメリットがある一方で、機能に異常がある精子を選択してしまうリスクを伴います。すなわち、「顕微授精は精子の状態が悪い方には不向きな治療」ということになります。 生殖補助医療に携わる医師の中で臨床精子学を専門とする者が極めて少ないことが「精子に関する知識の不足」していない精子を選別するか、どのように精子DNA損傷を確認するか、さらにはいかにDNA非損傷精子を自然な受精に誘導するか」に考え方を変える必要があります。「運動精子=良好精子という固定概念を脱却する」必要があります。 このモデルは、男性不妊治療の安全性向上とともに、現状の顕微授精に伴うリスク回避に寄与し、出生する児の安全確保にもつながります。 その具体的な技術基盤として私は、①高精度な精子分離技術(DNA損傷を有しない運動精子の無菌的分離)、②分離した精子の高精度な精密検査技術(一般的な精子選別基準である精子数・運動率・頭部形態などの評価に加えて、DNA損傷や受精に関わる精子機能を詳細に評価する)、③できるだけ少数の精子で受精を可能とする卵管型微小環境媒精による体外受精技術を研究、開発し、自ら臨床応用して症例を集積して参りました。これらの新規技術に関する詳細な紹介に興味のございます方は、『不妊治療の真実』(幻冬舎)をお読みください。 私は今、ライフワークでもある「どのような性質を持った精子を受精に供すれば、生殖補助医療の安全性向上に寄与できるか」に関して周知すべく、一生懸命に啓発活動をしております。生殖補助医療における安全性保証の観点から「精子の選別と評価」は極めて重要であることをご理解いただきたいのです。 最後に、生殖補助医療の歴史は浅く、不妊治療により出生した子どもに関して、生まれた直後だけではなく、成長過程さらには成人後と、長期に渡って見守る必要があります。私は、生殖補助医療で生まれた子どもたちが心身共に健康に成長して平均寿命まで元気に過ごせるように、少しでも安全な技術開発と治療の提供に努力を惜しみません。LOHASMEDICALVIEWどう精子を選ぶか


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