ロハス・メディカルvol.122(2015年11月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2015年11月号です。


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しょう。黄色ブドウ球菌という細菌がいます。これは私たちの喉や鼻にもいますし、ケガをして化膿している所で悪さをしていることもあります。どこにでもいる細菌です。 さて、この細菌、低温では増殖せず熱に弱いため、保存や加熱方法に気をつけていれば、「増やさない」「やっつける」ことができます。しかし、この細菌は毒を産生します。この毒、エンテロトキシンを食すと、中あたって食中毒を起こしてしまいます。細菌が今生きていなくても、「付いた」時に出した毒があればアウトなのです。 この毒は、100℃で30分加熱しても毒性を失いません。酸にも強く胃酸を通過し、腸で吸収され腹痛や下痢を発症させます。 毒キノコを加熱したら安全になると考える人はいないと思いますが、それと同じことです。したがって、「細菌がいなければ」大丈夫という発想ではなく、「細菌はいる」からこそ付けないようにする、という風に注力のポイントを変えた方が良いのです。 残念ながら義務教育の理科では細菌の生態について詳しく学ぶ機会がありません。しかし、病原体から身を守るためには、敵である細菌のことをある程度知っておく必要があります。 細菌の中には、ユニークな性質を持つものがあります。例えば、ボツリヌス菌です。生きにくい環境では姿を変えカレー、シチューといった作り置きをする料理でよく見られる食中毒菌です。この細菌も加熱すると芽胞になり死滅しません。特に40℃台でよく増殖します。また、酸素がない環境を好みます。 料理を大量に作って加熱し、大きな器ごとゆっくり室温で冷ましていると、食品の中の方は酸素がないため、この菌の増殖に適した状態になっています。秋になって涼しくなったから、室温でゆっくり冷ましても大丈夫と思っていませんか? とんでもありません。作り置きの器は、芽胞になったウエルシュ菌を育てる容器でもあるのです。 今回は食中毒をひき起こす細菌について話をしましたが、どういう細菌がどういう風に食中毒を起こしているのかといったことを知れば、細菌がなくなれば大丈夫という言葉が、うっかり出てしまうこともなくなります。梅雨や夏といった特定な季節だけ意識すれば済むものでないことも理解できると思います。食中毒を起こす細菌と常に共存をしているということを意識し、油断せずに食欲の秋を楽しみたいものです。LOHASMEDICALVIEW毎回、本文と関係のある本をご紹介していきます。小林一寛著PHP研究所 2014年本田武司著大阪大学出版会 2012年もっと知りたい方に人体に危ない細菌・ウイルス食中毒・院内感染・感染症の話改訂版食中毒学入門予防のための正しい知識て芽胞(硬い殻に包みこまれた形)になって耐えます。100℃で数時間加熱しても死滅しません。食品の温度が下がって生きやすい環境になると元の姿に戻り、増殖し神経を麻痺させる毒を作り出し食中毒をひき起こします。 ウエルシュ菌は、煮物、3姿を変えて耐える細菌


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