ロハス・メディカルvol.122(2015年11月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2015年11月号です。


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頭割りした金額が収支トントンの照射費用ということになります。分母に患者数が入りますから、治療患者数が増えれば増えるほど、照射費用は安くできるということ、お分かりいただけるでしょうか。 さて、以上を踏まえた上で粒子線治療2種類を見比べてみましょう。 細かい理屈は、本誌連載の最終回(2015年4月号、『ロハス・メディカル』のWEBサイトで電子書籍を読めます)で一度書きましたし、近日刊行の拙著『がん重粒子線治療のナゾ』(大和出版)でも改めて説明しますけれど、炭素イオン線は1人の患者に1度に当てる線量を増やし、その分患者1人の照射回数を減らすことができます。一部の肺がんでは既に1回照射になっており、研究をリードしている放医研では、照射可能なすべての固形がんについて1回照射実現を目標にしているそうです。対する陽子線の場合、線の性質の違いから、回数を減らすのに限界があります。 この結果、もし需要が充分に存在るなら、新幹線の「のぞみ」と「こだま」を一緒くたに扱うようなものです。 2種類とは、本誌で連載を続けてきた炭素イオンを飛ばす「重粒子線治療」と、陽子を飛ばす「陽子線治療」で、照射費用を安くできる可能性に差があります。「高額なのに」という文脈で扱うなら、分けないといけないのです。 現時点で各施設が提示している約300万円の照射費用だと、粒子線治療は2種類とも「高額」と言われて当然の面があります。しかしモノの値段というものは、本来は需要と供給によって決まるものであり、そこを見ないで費用対効果を云々するのは乱暴です。 そして、需要が増えた時に供給も増やせるのかを見ると、2種類は全く違うということに気づきます。その観点に立って、2種類を分けて論じれば、「高額」という大前提がひっくり返るのに、そのことが全く無視されているのです。 意外と知られていないことかもしれませんので一言お断りしておくと、現在、粒子線治療の照射費用は照射1回あたり一定額という設定ではなく、患者1人が予定された回数の照射を受けると一定額という設定になっています。30回に分けて照射を受けようが、1回だけ受けようが、1人が払う金額は同じです。 さて、粒子線治療の施設は大規模な加速器が必要で、建設に陽子線で100億円弱、重粒子線で100億円強かかります。重粒子線施設建設を進めている大阪府の検討会に提出された資料によれば、年間の施設維持費は陽子線が約5億円、重粒子線で約6億円、人件費が1日8時間稼働の場合で年4億5千万円かかるそうです。他に土地代、借り入れた資金の利息なども払う必要があります。 現存施設のうち最も古くから治療を行っている放射線医学総合研究所(放医研)は、21年経過して加速器はまだまだ使えそうです。そこから見て少なくとも30年は使えると考えて、その期間に収支を合わせるためには、陽子線で年16億円、重粒子線なら年19億円の売上が必要だそうです。この費用を年間の治療患者数でLOHASMEDICALVIEW使うほど安くできる種類の違い27


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