ロハス・メディカルvol.124(2016年1月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2016年1月号です。


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こまむら・かずお●循環器内科医。兵庫医大非常勤講師、横浜市大客員教授。過去に国立循環器病センター研究所室長、兵庫医療大教授など。者諸兄は、一般のメディアに出ている健康情報を、どの程度信用しているだろうか。 納豆の健康情報にまつわる捏造疑いで2007年に放送打ち切りとなった某生活情報番組や、出家詐欺をテーマに過剰演出をした昨年の某公共放送の特集のような例があることは、ご存じだろう。しかし、そんな極端な例でなくても、科学的な装いでメディアを騙してウソを報じさせるのは意外と簡単なことらしい。 今年3月、「低炭水化物ダイエットにダークチョコレートを併用すると早く痩せる」との論文が、学術専門誌『インターナショナル・アーカイブズ・オブ・メディスン』に掲載され、それを受けてビルト紙、シェイプ誌、デイリースター紙、コスモポリタン誌といった主要メディアを筆頭に、日本を含む世界中のメディアが大々的に報じた。 ところが発表の2カ月後、論文の筆頭著者であるドイツ人のボハノン氏が、「あれはニセ科学がダイエット産業に利用されるのを暴きたいテレビ局の依頼で世間に一杯食わせたんだ」とタネ明かしをした。彼は、分子生物学の博士号を持つ科学ジャーナリストだ。当の専門誌は、専門家によるチェックなしに投稿者の費用負担で出版されたもので、論文は既に撤回されている。だが、タネ明かしに気づかず、今でも信じている人がいるのではなかろうか。 先ほど例に出した2番組と違って、論文にウソは一切書いていなかった。では、彼は一体何を「一杯食わせた」のか。 ボハノン氏らは19歳から67歳の被験者を、A群・低炭水化物ダイエット、B群・低炭水化物ダイエットと1日42Gのダークチョコレート(カカオ81%)、C群・従前と変わらない食事の対照群の3グループに無作為に割り振って3週間追跡した。その結果、二つの低炭水化物ダイエット群で体重が減少し、B群はA群より10%余計に体重が減った。 この結果を受けて、WEBサイト上にだけ存在する食事健康研究所なる組織が、「チョコレートは体重減少を加速させる」との見出しでプレスリリースを出した。10%という数字はプレスリリースだけに書かれていて、論文上は現れない。被験者の数は、どちらにも出てこないが、1グループたったの5人ずつだった。 この後、記者のほとんどはプレスリリースをただコピペするだけで記事にした、とボハノン氏は批判する。誰も被験者数を尋ねなかったという。 実は今回の試験では、体重の他にコレステロール値や睡眠の質など18項目に及ぶ項目が調査された。被験者が少ないのに、これだけ沢山の項目を調べると、一つくらいは群間で統計的有意差が「偶然に」生じる。ボハノン氏自身の計算によれば、6割の確率で統計的有意差が「偶然」発生するという。その「偶然」を世界中のメディアが大々的に報じてしまい、当人がタネ明かしするまで誰も気づかなかったのである。新連載統計を知らないために騙される健康メディア駒村和雄LOHASMEDICALVOICE読30


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