ロハス・メディカルvol.125(2016年2月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2016年2月号です。


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実質的な輸出禁止 国会で、兵士の治療に用いることができる「後方支援物資」ではないかとの議論があり、1966年から、武器に転用できる物資の輸出を制限する「輸出貿易管理令」の対象となっています。LOHASMEDICALVIEWうか? ここに、血液製剤の抱える特殊な事情があります。 2002年制定の「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(以下・血液法)」に、「献血による血液製剤の国内自給」との方針が明記されています。「献血による国内自給」が国策となったのは、血友病の方などに多くの感染者を出した薬害エイズ事件が契機となっています。 法律に書いてあるわけですから、厚労省には「献血による国内自給」を達成すべく努力する義務があり、また患者によっては命に関わる薬ですから安定供給も大前提です。自給による安定供給を達成すべく、その製造を任せていたメーカーの一つが化血研でした。 第三者委員会報告書には、『化血研の製造する製剤の中には、シェアが高く代替性が困難なものが多い』とも書かれています。つまり、自分たちが製造を引き受けなかったら、厚労省だって困るはずだ、と思い上がる要素はあったのです。 もちろん世界を見渡せば、化血研が作っているものを製造供給できるメーカーは複数存在するのですが、ベトナム戦争をきっかけに血液製剤の輸出は実質的に禁じられている(コラム参照)ため、国内の献血を原料とするとなると、ほぼ自動的に国内メーカーに製造させざるを得ず(原料血漿の国外持ち出しが難しいため。海外メーカーが国内に工場を造れば別)、その中では化血研の技術力は一定の評価を得ていました。厚労省からすると、他に選択肢がなく、そう強くも出られない相手だったということなのです。 強く出られない理由は、まだあります。 血漿分画製剤が最初は大変に儲かったのだけれど、今では旨みがなくなり、しかも市場は先細りする一方ということです。このため、新規参入を期待することすら難しくなっていました(ただし化血研自体は、現在もワクチンなどでガッチリ儲けています)。 血漿分画製剤の市場が先細りになる理由は二つあります。 一つ目が、主に海外メーカーの遺伝子組換製剤にシェアを奪われ続けていることです。 理屈上、体内で作られているタンパク質と、そのアミノ酸配列を指定する遺伝子が同定されれば、その遺伝子を細菌や細胞に組み込んで、その物質だけ大量に作らせることができます。その方法で製造されたものが遺伝子組換製剤です。 ピンと来ない方には、今まで他人から提供される臓器を移植するしかなかったのが、IPS細胞から臓器を作れるようになったのと同じだと言ったら、その性格の違いを分かっていただけるでしょうか。 ヒトの血液に潜む未知の病原体による感染のリスクが理論上なくなること(組み込む細胞由来のリスクは残ります)、医薬品としての改良を行えること、原料の量の制約から解放されることなど、遺伝子組換製剤には多くの優れた点があります。改良して新製品とすることで薬価を付け直せるというメーカーにとっての経済的メリットもあります。 患者にとっても遺伝子組換製剤のメリットは大きかったため、当初は血漿分画製剤の花形的存在だった凝固因子製剤もシェアを落とし続けてきました。市場が先細り17


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