ロハス・メディカルvol.125(2016年2月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2016年2月号です。


>> P.21

正する更生を妨げていたのは、紛れもなく監督官庁としての厚労省の体質です。今現在も、似たようなことをしていて告白できずに震えているメーカーや研究機関があるかもしれません。 もう一つのポイントが、旧内務省に起源を発する省庁ならではの「結果責任だけ問う」体質です。悪い事が起きないように常時監督しているのは手間と人手がかかって面倒なので、何か起きた場合に、その責任者を吊るし上げて一罰百戒にするというものです。 体質のよく分かる好例が、2015年10月から始まった医療事故調査制度です。目的は再発防止・医療安全と謳われているにもかかわらず、届出の対象は死亡事故のみとなりました。1件の死亡事故の背後に何百件もの軽い事故が隠れています。そして、それら軽い事故を減らしていくこ患者さんや医療界に大変な迷惑がかかるので、9カ月分の在庫を持ってから製造変更を申請するというのが通例となっているそうです(本誌特別記事参照)。つまり、前もって9カ月分余計に生産してからでないと変更申請できません。しかし、余計に生産するための原料血漿は日本赤十字社からしか買うことができず、献血の目標量と連動する割当量は、1年ごとに国の薬事・食品衛生審議会血液事業部会で承認されることになっています。例年以上の割当を受けるためには事情を説明しなければならないけれど、説明した瞬間に生産を止められて大混乱になる、ということが目に見えているわけです。厚労省が一緒に知恵を絞ってくれる、などということは期待できません。化血研は一体どうすれば良かったのでしょうか。 つまり最初に悪事に手を染めたのは化血研の自己責任ですが、その悪事を告白して是としか死亡事故を防ぐ方法はありません。本気で再発防止・医療安全に取り組むなら、ヒヤリとした事例をすべて集めないと意味がないのです。 しかし、それをやる意思も能力も、今の厚労省には残念ながらないと思います。監督される側の医療界も、そのことは百も承知で、事故調査制度を医療安全に役立てていこうという機運はあまり盛り上がりません。 今回の化血研は、製品の品質を国立感染症研究所の国家検定でチェックされていたこともあって、作り方は承認書と違ったかもしれないけれど安全性には問題ない、むしろ専門家として良い物を作ろうとやっていた、という意識だったことが第三者委員会報告書に書かれていました。恐らく、何も起きてないのに見つかって罰せられる自分たちは運が悪かった、と思っているはずで、心の底からは反省していないことでしょう。 厚労省がこの体質を改めない限り、もし似たようなことをしているメーカーや研究機関があったとしても、「悪いことが起きる前に直そう」と思うのではなく、「悪いことが起きない限り隠し通そう」と思ってしまう可能性が高いでしょう。つまり、厚労省は自らの体質によって、国民に潜在的な危険を与えています。 ですから本来であれば、今回は厚労省も化血研と一緒に国民に対して謝り、その体質を直すべきなのです。それなのに自分たちは謝りもせず、化血研を刑事告発するそうで、当事者意識がなさ過ぎると思います。厚労省が今すべきは、ある期限を区切って、その間に同様の不正を申し出た組織については責任を問わずに改善を支援することです。 と言っても、そんな重大な決断を官僚にできるとは思えません。まさに政治の決断が必要です。政治家こそが、今、腹を括るべきだと考えます。結果責任だけ問うLOHASMEDICALVIEW21


<< | < | > | >>