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ストレスなぜ悪いのか
生命の本質
ここのところ毎号同じ話から始まって恐縮ですが、大事なことなので、お許しください。
私たちは、外から飲食物を取り込みながら、また逆に老廃物を排出しながら、体の組織の分解と再構築を繰り返して、体温や血圧、体液の浸透圧やpHなど、体内をほぼ一定の状態に維持しています。このように生命が、ゆれ動きながらほぼ一定の状態に保たれていることをホメオスタシス(生物の恒常性)と呼びます。
恒常性が保たれるのは、何か状態に変化が起きた時、すかさず元へと戻そうとするフィードバック作用が働くからです。このフィードバック作用を主に司っているのが、脳の視床下部というところで、その指令を全身に行き渡らせているのは自律神経やホルモンです。後で再度ここに戻ってきます。
さて、私たちの状態に変化が起きるのは、どんな時でしょう?
そう、環境が変化した時ですね。この場合の環境とは、必ずしも体の外部だけに限りません。自然環境は常に変化していますし、私たちの心や体も自分ではどうにもならないくらい急激に変化することがあります。
いよいよストレスの出番です。いきなりサラっと定義してしまいますと、環境の変化によって生じた定常状態からのズレを「ストレス状態」、適応しようとする動きを「ストレス反応」と呼んでいます。
抽象的過ぎるので、ゴムボールを例に説明しましょう。踏んづけると抵抗を感じます。足を離すと、歪んだ状態から元の球形へと戻ります。この歪みがストレス状態。戻ろうとする力がストレス反応です。ちなみに、踏んだ力(環境の変化)のことはストレッサーと呼びます。もっとも現在では、この辺りの用語を区別せず「ストレス」と総称するのが一般的ですね。
この例えで、ボールがない時には「ストレス」もないということお気づきでしょうか。また、ゴムボールの代わりに野球ボールがあったら、つぶれないで場合によっては足の下から外れるだろうということも推測できますね。
さあ、ここまで読んで、ストレスの何が悪いのか、分かったでしょうか。
ご安心ください、分かるはずありません。
世界は常に変化していて、一瞬たりとも定常状態になる(停止する)ことはありません。生きている限り環境変化はあり、それに適応しようとする働きがあり、ストレスもあるのです。要するに、ストレスがあるということは、生きているということとほぼ同義で、そこに良いも悪いもないのです。
ストレスの始まり カナダの生理学者ハンス・セリエが1936年、刺激(環境変化)の種類に関係なく、その刺激に適応していく時の反応とプロセスは同様というストレス学説を発表して、この言葉が使われ始めました。「悲しみ」でも、「喜び」でも同じ反応プロセスをたどってその刺激に適応していくという画期的な発見でした。この学説では心の働きには、あまり着目されていませんでしたが、その後、アメリカの心理学者リチャード・ラザルスが「環境の要求とその認知、対処能力の認知との複雑な相互作用からもたらされる過程」と、心に重点を置く形で定義し直しました。