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気づいていますか? 老人性難聴
加齢にともなう聞こえの低下は、冒頭でも申し上げたように50代から始まります。それでも自覚するのはようやく70代になってから、というのが一般的。とはいえ、老化現象すべてに共通する性格として、一人ひとり大きな個人差があるものです。早い人では40代で聞き取りに支障が出ることもあるのだとか。
やっかいなのは、一度失われた聴力を取り戻すことは、まず無理だということ。壊れてしまった感覚細胞(音センサー)は再生できませんから、老人性難聴を治療する適切な手段は今のところないのです。進行を止める有力な治療法もありません。
では、老人性難聴は予防できるのでしょうか。残念ながら治療と同様、特別な方法はありません。ただし、感覚細胞は20代から大きな騒音に対する抵抗性が落ちて破壊されやすくなるそうですから、高齢者は日頃から大音量には接しないようにすることが唯一、予防策といってよいでしょう。これは進行を少しでも遅らせることにもつながりそうです。
さて、「もしや老人性難聴かな?」と思ったとき。それでもまだコミュニケーションが円滑にできているうちは、特に何もしないまま過ごしていても問題はありません。ただ、本人に自覚がなくても周囲の人が困っているケースも多いもの。なんとなく会話がしづらくなったり不便を感じるようになったら、まずは耳鼻科を受診して、聴力検査をしてもらいましょう。
本当に老人性難聴なのか、どの程度まで聴力が落ちているのか判断するには、次の2種類の検査がもっとも基本的なものとなります。
●純音聴力検査...音の高低(周波数)と強さから、どれくらい音をとらえにくくなっているのかを測るもの。(図)
●語音聴力検査...「ア」や「サ」など一つひとつ語音を聞かせてどれだけ正確に聞き取れるか調べるもの。
必要に応じて他の検査と、最終的には過去の耳の病気や騒音にさらされた経験などもあわせて考慮して、診断を下します。聴神経や脳の異常が疑われる場合は、CTスキャンやMRI検査も行います。
ちなみに、耳鳴りがきっかけで医師に診てもらったら、それが老人性難聴の初期の症状だった、というケースがよくあるそうです。他の病気が原因で聞こえが悪くなることもありますから、違和感を感じたら早めに受診して原因をはっきりさせるに越したことはないですね。
最先端研究に期待!? 老人性難聴では、再生医療の手法を導入して聴力を回復させる研究が進められています。さまざまな細胞・組織に育つ胚性幹細胞(ES細胞)や、分化する能力の高い骨髄間質細胞などを内耳に注入し、感覚細胞やこれにつながる聴神経細胞の再生を誘導できないか、というもの。また、遺伝子治療により、発症を防いだり遅らせたり、あるいは治療できないか、という模索も続いています。ただ、いずれも実用化の目標は10年後。ちょっと気の長いお話です。