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ストップ!! 医療崩壊2
医療供給を増やす方法で誰もが思い浮かべるのは、医師の養成だと思います。
前出の厚労省報告書によれば、全国の医学部から、毎年7700人程度の医師が誕生しています。亡くなったり引退したりする方を差し引いても、年に3500~4000人は増えていると考えられるそうです。
結構な数に思えるかもしれませんが、平成の大合併が行われるまで全国に自治体が約3千あったこと、大学病院の診療科(医局)が20以上あることを考えていただくと、実はそんなに多くないことが、ご理解いただけると思います。
そこで、医師の養成数(=医学部定員)をもっと増やすべきとの主張があります。しかし厚労省報告書は、「医学部定員の増加は、短期的には効果が見られず、中長期的には医師過剰をきたす」と全面的に否定しました。
この見解が妥当かどうか議論すると、特集が作れてしまうので、ここでは判断しません。医師の養成数は当面増えないという前提で、他の方法を考えることにしましょう。
と、これまた簡単に思いつくものとして、埋もれている医療資源を掘り起こすという方法があります。医師免許を持っていながら、現在医療現場を離れたという方に再登板していただくわけです。
こういった方がどの程度いるのか、実はよく分かっていません。けれど、多くの人が指摘しているのは、病院勤務が寝る間もないほど過酷で育児と両立できないため、家庭に入ってしまっている女性医師の存在です。
勤務医が寝る間もないほど働かなければならない理由として、日本の多くの医療機関が主治医制を採っていることが挙げられます。主治医となったら患者の全局面に1人で張り付くわけです。患者からすれば非常に心強いことではありますが、「その人でなければ絶対にダメ」というものばかりではないはず。
少なくとも複数の医師が勤務している病棟であれば、シフト制を導入することで過酷さが随分と軽減されます。辞める人が減るはずですし、パートタイム医師をシフトに組み入れて実質供給を増やすこともできます。
それから実は勤務医が日常行っている業務には、「医師しか行ってはいけない」もの以外に、看護師になら任せられるもの、誰にでも任せられるもの(=雑用)が結構含まれています。同様に看護師も雑用を結構やっています。
通常の業界なら、時給の高い有資格者に雑用をさせるともったいないという経営判断が働くものでしょうが、医師は(場合によっては看護師も)サービス残業が当たり前という慣行があるため、医師・看護師に主業務に加えて雑用をさせるほど病院の経営は助かることが多いのです。
誰も困っていないならともかく、そんなことで勤務医や看護師を疲弊させバーンアウトさせるとしたら、実にアホらしい話です。この勤務形態を整理して、それぞれの主業務に専念できるようにすることも実は医療資源の掘り起こしと言えるのではないでしょうか。
ただし難点というか当たり前の話として、掘り起こした分の人件費は増えます。多くの病院が赤字なので、診療報酬を上乗せする必要がありそうです。
首都圏も夜間・休日は大幅な供給不足です。 都心には昼間人口に見合うよう病院や診療所が潤沢にあり、供給不足の心配はないと感じるかもしれません。しかし実は医師の多くが郊外から通っているので、休日・夜間は過疎地域なみの陣容になっています。不足を補うために無理やり当直で残らせると、立ち去り(次項参照)を促進して長続きしません。 逆に郊外地域は夜間人口に比べて昼間人口が少ないため、昼間人口に見合って設置されている病院や診療所では、休日・夜間に対応しきれません。
医師法によって、こんな義務があります。 医師は、時間内に診療を求められた場合、『正当な事由がなければ、これを拒んではならない』と規定されています。これを応召義務と呼びます。医師は自分の都合で医療需要を抑制できないことになります。 また、『医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない』という条文もあります。これが、最近何かと話題になることの多い医師法21条です。