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胃腸がおかしい! この病気かも。
今回は器質的なものを中心に、体の上の方から順に見ていくことにします。
食道から十二指腸までの上部消化管の場合、消化管に傷をつける最大の原因は胃酸です。胃酸はタンパク質を溶かしますので、当然消化管の細胞も溶かす力を持っています。普段なんともないのは、胃や十二指腸の粘膜表面を粘液が覆ってバリアとなり、胃酸と細胞とが直接触れないようにしてくれているからです。
このため、粘膜のない食道まで胃酸が逆流すると「逆流性食道炎」になります。また、胃や十二指腸でも、粘膜のバリアが相対的に弱くなると、組織が侵され炎症や潰瘍となります。この場合は痛み・不快感が主症状で、食道や胃の働きが失われるわけではありません。
以前は、バリアが弱くなる原因として、ストレスや暴飲暴食によって胃酸の分泌が増えるとか、粘膜細胞への血流が減ると言われていました。
また消炎鎮痛剤(痛み止め)は、薬効成分が痛みを和らげる際、副次的に粘液が作られるのを妨害するため、バリアが弱くなります。医師が消炎鎮痛剤を処方する際、たいてい胃粘膜を保護する薬も一緒に出すのは、これが理由です。
最近では、これらバリア機能の一時的低下は急性胃炎の原因ではあるかもしれないが、慢性胃炎や潰瘍に関しては別の原因があると考えられるようになっています。それが「ピロリ菌」(ヘリコバクター・ピロリ)です。
胃の中は、本来であれば生物がすめないはずの強酸性ですが、この菌は尿素からウレアーゼという酵素でアンモニアを作り出す能力を持っており、自分の周りは酸を中和してしまいます。
5歳ぐらいまでの免疫力の弱い子供のころにこの菌を体内に入れると、生涯すまわせ続けることになると考えられ、日本では衛生状態の悪い子供時代を経験した50代以上の7割が保菌者と言われます。大人から子供への感染は容易に起こります。しかし大人へは、そう簡単には感染しないようです。
そして、ピロリ菌をすまわせている多くの人が慢性胃炎になっています。この状態でとどまるなら自覚症状もほとんどないため、あまり実害はありません。しかし一部の人は潰瘍まで進んでしまいます。いったん潰瘍まで進むと、この菌がいたままでは治りが悪く再発を繰り返します。最悪の場合は癌への移行もあります。
このため、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の場合、ピロリ菌の除菌(コラム参照)治療が保険で認められています。保険では認められていませんが、胃MALTリンパ腫という血液がんの一種の治療や萎縮性胃炎から癌への移行防止にも除菌の有効性が確かめられています。
ピロリ菌の検査と治療 ピロリ菌がすんでいるかどうかの検査には、いくつかの種類があります。内視鏡を用いる場合は、診断確定まで時間がかかるものから順に、採取した細胞を培養する「培養法」、同じく取ってきた細胞を顕微鏡で眺める「鏡検法」、ウレアーゼによって周囲がアルカリ性に傾いているのをpH指示薬で染める「迅速ウレアーゼ試験」などがあります。内視鏡を用いないものでは、血液中や尿中のピロリ菌抗体を調べる「抗体測定」と特殊な尿素製剤を飲んで前後の呼気中に含まれる二酸化炭素の成分を調べる「尿素呼気試験」などがあります。 除菌する際は、胃酸の分泌を抑えるPPI(プロトンポンプ阻害薬)とアモキシシリン、クラリスロマイシンの抗菌薬(抗生物質)2種の3剤を1日2回1週間飲み続ける「3剤併用療法」が一般的です。この治療には下痢や味覚異常、舌炎、口内炎などの副作用が知られています。 この治療で7~8割近くの人が除菌に成功しますが、失敗することもあり、近年失敗の割合が増えつつあると言われています。抗生物質を使う治療法の常として、中途半端にやめて除菌が不完全になると耐性菌ができて社会全体の脅威となりますので、始めたからには最後まで規則的に薬を服用し続けることが大切です。