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養老孟司×中川恵一の現代ニッポン人論

中川 今の科学の世界では、"単純化しないと説得性がない"ことになっているというお話ですが、私もそう思います。ただ、複雑なことをやっていても、寿命が足りるのかなとも思いますよね。

養老 そう、足りないんですよ。だけど、僕がひとつ言いたいのは、根本的に生物の「システム」への理解が欠けているってことなんです。だから、外に出ようとする雀がガラスに何度でも頭をぶつけちゃうようなことばかり繰り返している。それは政治や経済も同じですよ。たとえば、たとえば、帰化動物の問題なんて、ずっと議論してるのはご存じでしょう?

中川 ええ、そうですね。

養老 ブラックバスだって、あんなものいたら困るからって、徹底的に駆除しろって言う人がいる。駆除するとなれば、おそらく官庁が毎年予算を出す。でも、きっと永久に予算を出し続けないとブラックバスはいなくなりません。そして、"金が出る"という事の方がだんだん中心になってくる。要は、生物というものを間違って見ているんですよ。システムとはそういうものなのに、いったんそこで駆除事業みたいなものを立ち上げたら、最後までずーっと行っちゃう。

中川 がんもそういうところがありますね。

養老 がんの多様性も、ある意味、そういうものでしょ。しかも、自分が作っているんですから。そうすると、人体をひとつのシステムとして見た時に、がんをどう位置づけるかという問題が出てくる。人体で起きている現象について、もっと上手に見る方法があるはずなんです。

中川 先生が著書の中で「がんは老化の一種である」と書かれていましたが、実はその概念、僕は初めて出会ったんです。時間が経ってがんの細胞分裂の回数が増えてれば、がんになる確率も当然上がるという意識はありましたが、老化と言われると非常に楽になりますね。たぶん、昔は多くの老衰の方にがん患者が含まれていたんでしょう。で、今はそこに治療行為が加わって、"寝た子を起こす"みたいなことになった。

養老 それも、システムの問題でしょう。前に、メダワーっていうノーベル賞ももらったイギリスの免疫学者の議論をまとめたものを読んだんですが、彼は「人類からがんをなくす事は可能だ」って言う。どうすればいいかっていうと、老齢になってがんができるんだから、結婚年齢を可能な限り遅くすると(笑)。要するに、がんの発生に関して自然淘汰をかけちゃえばいい、と。非常に長い時間がかかるでしょ。論理の遊びとして言っているんですが、これは明らかに"老化すればがんが増える"ってことを前提に言っている話なんですね。

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