がん医療と介護シンポジウム
朝日新聞による東大医科研ペプチドワクチン臨床研究報道で、がん患者さんとがんに携わる医療者たちが騒然とする中、その医科研で16日に『シンポジウム がん医療と介護-親のための準備、何したらいいの?誰に相談したらいいの?』というものが開催された。軽い気持ちで覗いて来たら、あまり来場者は多くなかったものの、予想以上に面白かったので簡単に再現したい。(川口恭)
登壇したのは
・小松恒彦 帝京大学ちば総合病院 教授
・児玉有子 東京大学医科学研究所 特任研究員
・赤田貴史 生命保険修士会 会長
・菅原由美 全国訪問ボランティアナースの会キャンナス代表、開業看護師を育てる会 理事長、有限会社ナースケアー 取締役 ケアマネジャー、看護師
・片木美穂 卵巣がん体験者の会スマイリー 代表
の5人
まず小松教授の基調講演。
「がんの問題で、今日はおカネについてお話をしたい。病院に支払う医療費。送迎の交通費。仕事を休むことで収入がなくなる。お金についてある程度分かってないと、あれがしたいんだけどお金がないということに直面する。
がんで手術で切って取って治っちゃったというのは、かなりハッピー。多くの人が抗がん剤治療になる。現在、抗がん剤はその時その時でやるというようなものでなく、あらかじめ計画が決まっていて、それに従ってやるようになっている。その計画を紙で示したものがクリティカルパス。薬の量も、体表面積あたりで決まっている。さじ加減をしたりしない。ここで問題になってくるのが、最近の薬は高いこと。たとえば白血病の治療に使うリツキサンは1回投与するだけで30万円。高額療養費制度というものはもちろんあるんだけれど、それにしても国民の誰かが負担をしている。
日本の医療費は社会主義的に決まっているのに対して、薬の価格はグローバルに資本主義的に決まる。元々高い上に抗がん剤の場合は、市販後調査というものがやられることがほとんど、それにも費用がかかる。価格を下げちゃえばいいじゃないかという考え方もあるかもしれないが、そうすると今度は薬そのものが日本に来なくなってドラッグラグになる。なかには慢性骨髄腫の薬のサリドマイドのように、承認前にインドから輸入していた時より、承認されたら20~30倍になってしまったものもある。レグランドという薬は1ヵ月93万円。ソリリスは年間4000万円、それを誰かが払わなければならない。
日本の医療費制度は出来高払いとDPCによる包括払い制度と事実上1国2制度になっている。DPCで高額薬剤を使うと、病院は採算に合わないようなことがよく起きる。医療費は半分が人件費と言われているので、薬剤費に使ってよいのは40%程度。薬剤費だけで90%を超えてしまうような入院が増えると、病院は大赤字。この中にいるか分からないが、抗がん剤を使うので入院期間を延ばしてほしいというようなことを言われた人もいるのでないか。病院は儲けるためにやっているわけではないが、しかし潰れないことも大切。
では、それだけ高い薬にどれだけのご利益があるのか。リツキサンは5年生存率が15~20%上昇すると言われている。それで1クール151万円。マイロターグは一部によく効く人もいるが全体としては生存率延長にほとんど寄与しないけれど145万円。サレドは使い方次第だが効いている限り毎日1万3千円、レグランドも5年生存率は20%上がるけれど一方で効いている限り毎月93万円。これを国民の誰かが払う。
高齢化率と医療費の対GNP比の関係を見ると、米国は高齢化はほとんど進んでいないが医療費はうなぎ上り。もちろん悪いことばかりではなく、それだけ国内でアグレッシブにやっているから、どんどん新しい薬も出てくる。日本は高齢化は進んだけれど医療費はほとんど伸びていない。ドイツもいったん伸びたけれど最近はあまり伸びていない。イギリスやフランスは、高齢化も進んでいるし、医療費も増えている。
9月に報道ステーションでグリベックの特集があった。私たちが登場するもので事前に分かっていたから、放送されることで何か世論に変化が起きるか放送の3週間前と1週間後で全く同じ人500人を対象にアンケート調査をした。まだ中間解析段階で結論を出すには早いが、かなり長時間の特集だったけれど、今見ている限り、ほとんど意識に変化がなかった。これをどう解釈するかは人それぞれだろう」