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なぜ? どうして? 花粉症の謎。
花粉症はアレルギーの一種。アレルギーとは、簡単に言ってしまうと免疫の暴走です。ここまでは恐らく皆さんもご存じでしょう。
もう少し詳しく、何がどう暴走するのかみていきます。
免疫は、体内に侵入した異物を撃退する役目を負っています。異物といっても、いろいろありますけれど、基本的に生物由来の有機物に反応するのだと思ってください。無機物の解毒・排出は肝臓など別のシステムの仕事になります。生物由来のものを撃退しようとするのは、生物の中に細菌やウイルスなど、感染して悪さをするものがいるからです。
撃退手段の中に「侵入を物理的に阻止し、体外へ強制的に追い出す」というものがあります。鼻づまりで空気を通りにくくすると同時に、くしゃみ、鼻水、せき・たん、涙などの液体を使って、異物を押し流してしまうものです。風邪の時などにこういう症状が出るのは、ウイルスなどの病原体を追い出しているのですね。
とはいえ、花粉は別に悪さをしません。本来なら放っておいてよい相手なのに免疫が発動して、全力で体外へ強制排出してしまうのが花粉症。これが暴走の第一で、この場合の花粉のようにアレルギーの原因となる物質をアレルゲンといいます。
暴走はもう一つあります。一度免疫が発動してしまうと、以後は花粉が入ってくるたびに無条件に免疫が働いてしまうのです。
二つの暴走の仕組みを、もう少しみていきましょう。
第一の、なぜ花粉に免疫が反応してしまうかの理由は、残念ながらよく分かっていません。どうやら様々な要因が関係しているようで、例えば大気中にディーゼルエンジンなどから出る微少粒子が増えてくると、暴走の引き金となる免疫グロブリンE(IgE)が体内で作られやすくなると知られています。空気のきれいな所では発症しなかった人が、都会へ出てきて発症するのは、これが理由です。
IgEも人類の歴史の中で役に立つことはあったはずですが、現代人にとっては作られない方がよい物質です。
第二の暴走の仕組みは、かなりハッキリしています。
「入れるな押し流せ」という命令になる科学伝達物質をヒスタミンといいます。このヒスタミンをいっぱいため込んでいるのがマスト細胞(肥満細胞)というもので、IgEはマスト細胞の鍵穴に入りこんで、ヒスタミンを大量に放出させます。ヒスタミンが尽きれば症状も一過性で済むはずですが、なんと翌日には、肥満細胞が再びパンパンにヒスタミンをため込んだ状態に戻ってしまいます。
しかも、これを繰り返しているうちに、本来はあまり粘膜表面にいないはずの肥満細胞が、どんどん表面に出てきて、素早くヒスタミンを出すようになります。敵は手ごわい、と勘違いして襲来に備えているわけです。
「コップの大きさ」理論は正しいのか? 前年まで花粉症を発症していなかった人が新たに発症すると、「体内に入った花粉の合計がコップの大きさを超えて、あふれた」と例えることがありますね。人によってコップの大きさが違うから、発症する人としない人がいる、と説明されます。 しかしこの例えは、ある個人の許容量が生まれながらに決まっていて年々減っていく一方のように見える所が正確ではありません。実際には、日々刻々と変化するものなのです。 例えるなら、むしろ、片側の下に風船がくっついたシーソーのイメージです。花粉やストレスが反対側の抵抗力に比べて重く風船側が下がりすぎると、風船が割れます。それが発症。シーソーの傾きを元に戻しても、もはや風船は元に戻りません。