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インフルエンザに効く漢方薬 逆ザヤで供給不安説

 インフルエンザの解熱までの期間がタミフルより短いという研究もある漢方薬の麻黄湯に供給不安説が出ている。薬価が安すぎてメーカーが売れば売るほど損をするうえに、原料が生薬(植物)で生産量が限られているためだ。専門の医師からは「こんな大事な時に使えないなんて。薬価の仕組みを根本的に変えないと国民の利益を損ねる」との声が上がっている。(川口恭)

 麻黄湯は感冒初期に処方される代表的な漢方薬で、サイトカイン産生を抑制する作用を持ち、インフルエンザにも効果があるとの報告が相次いでいる。耐性ウイルスを生み出す心配がないことから、タミフルやリレンザなどが使えない場合の有力な治療選択肢だ。研究報告の中には、治療開始から解熱までの時間を、1タミフル単剤、2タミフルとの併用、3麻黄湯単剤で比較したところ、なんと3が最も短く、次いで2、1の順だったというものもある。

 ところが、この麻黄湯に供給不安説が出ている。

 理由は二つあり、お互いに関連している。まず1日薬価が55円と極めて低いため既に原価割れしており、メーカーは売れば売る程赤字になるという。一方、原料は、杏仁、麻黄、桂皮、甘草といった生薬でその生産量は限られており、需要が高まれば高まるほど価格も上がることになる。また、その多くを中国に頼っていることから、中国など他国で需要が高まってもやはり価格は上がり、国際的な価格競争に負ければ原料を確保できなくなる。実際、SARS禍の際は、タミフルの原料だった八角の価格が10倍まで跳ね上がったことがあるという。

 さらに事情を複雑にしているのは、原料が他の製剤の原料と重なることも多く、たとえば花粉症に使われる小青竜湯には麻黄が必要だし、肝炎治療に使われる強力ミノファーゲンには甘草が必要と、麻黄湯ばかり生産すると他の製剤を作れなくなることだ。

 最初の問題である漢方薬の薬価が不当に安い理由は、薬価制度が工業製品を前提としていて、生産設備の減価償却などを見込んで年々下がっていく仕組みになっているからだが、相手が植物で栽培もそう容易ではないという場合、むしろ原料の価格は年々上がっていくので、その製剤の良さが社会に認められ定着するほどにメーカーは赤字が膨らむことになる。

 薬価が安いのは患者にとってありがたいことだが、供給されなくなるほどの低価格は明らかに患者にとっても有害と言えるだろう。

 慶應義塾大学医学部漢方医学センターの渡辺賢治准教授は「今回のように漢方が大いに役に立つはずの場面で国民の利益にならないというのはメチャクチャな話。薬価制度を根本的に見直していただくと同時に、栽培可能な生薬は国内でも生産を始めるなど原材料確保のために力を注ぐべきだ」と話している。

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