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たかが貧血、されど貧血
鉄欠乏性貧血になる理由は、①鉄の喪失量が多すぎる、②鉄の摂取量が足りない、の少なくともどちらかです。結果として貯蔵鉄を使い果たし、貧血になったと考えられます。
鉄の喪失とは、要するに出血のことです。血の血球成分は、血しょう成分に比べて、作るのに時間がかかります。月経のように出血があると血が薄くなるわけです。慢性的に出血のある場合は、それを止めないと始まりません。
問題は、どこから出血しているか、です。女性の場合、原因の多くは月経過多ですけれど、子宮筋腫など婦人疾患が隠れている可能性もあります。男性には月経のような定期出血はありませんので、胃や腸などに傷(潰瘍)や腫瘍がある可能性が高いです。
慢性出血を治療して、鉄の過剰な喪失を食い止めたら、今度は鉄の補給です。貯蔵鉄を使い果たした状態の場合、食事だけではとても追いつかないので、鉄剤を飲むか注射するかになります。
鉄剤を飲むと、ムカムカしたり下痢をしたりという副作用が起きることがあります。鉄剤には様々な種類があって、人によって向き不向きがあります。副作用が出たら主治医に相談して、薬を変えてもらうとよいでしょう。いったん症状が改善しても、貯蔵鉄がたまり切るまで数カ月は鉄剤を使い続けないと、すぐに再発します。副作用を我慢しない方が使い続けられます。
治療が済んで症状が改善しても、もともとの生活で鉄の摂取が足りなかった場合、放っておいては何年か後に間違いなく再発します。ここからは、日々の生活改善になります。
食事での鉄の摂取量は十分だったでしょうか。鉄は、もともと食材に微量しか含まれないうえ、体内になかなか吸収されづらい特性を持っています。一日の必要量は1mgだとしても、それを吸収するには食品に含まれる量として10mg以上必要。無理なダイエットなどを繰り返すと、鉄が足りなくなって当然です。
ちゃんと食べているけれど吸収が悪いというパターンもあります。原因として、最も考えられるのが胃酸の分泌が少ないこと。
食物中で安定した形になっている鉄は、そのままでは体内に吸収されません。胃酸によって吸収されやすい形に変えられる(還元される)必要があります。ビタミンCやたんぱく質も、この還元作用を助けます。
おいしいなあと思いながら、じっくり噛んで食べると、胃酸がよく出て鉄も吸収されやすくなります。逆に、栄養の偏った食事をしたり、喫煙でビタミンCを失ったりすると、鉄の吸収が悪くなります。
ウソみたいな話ですが、本当です。
吸収の良い鉄、悪い鉄。 先ほどヘムという化合物の話をしました。動物の血や肉でヘムに取り込まれて機能鉄の状態になっているものをヘム鉄といい、これは植物に含まれる鉄に比べるとはるかに吸収率が高く、10%を超えます。 ただし、毎日肉類ばかり食べるとなると、今度は高脂血症や動脈硬化など生活習慣病を招きかねません。非ヘム鉄を上手に吸収する工夫が必要です。ビタミンCと一緒だと吸収率が上がるので、様々な食材を組み合わせることが大切です。鉄瓶、鉄鍋の使用も意外と効くようです。
野菜の鉄が減っている。 鉄のようなミネラル分は生物が体内で合成できません。外から摂取する必要があります。表現を変えると、植物が土から吸収したものを食物連鎖によって動物も利用しているわけです。実は植物が使う地中の鉄も、胃腸の中と同じように酸性条件でないと、吸収されづらいのです。日本の農地はどんどんアルカリ化が進んでおり、作物がミネラル分を吸収できず、栄養価が落ちる原因と言われています。