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「高脂血症」あらため脂質異常症です。 よろしく。
さて血中脂質についてだいぶ分かっていただいたところで、何がどう悪いのかへと話を進めます。
4月末に日本動脈硬化学会が新しく発表した『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』によれば、以下の3つが科学的に確かめられています。
①血中のLDLコレステロール値が高くなると冠動脈疾患の発症率も上昇する
②血中のHDLコレステロール値が低くなると冠動脈疾患の発症率は上昇する
③血中のトリグリセライド値が高くなると冠動脈疾患の発症率も上昇する
3つとも「冠動脈疾患の発症率が上昇する」の部分が共通ですね。
冠動脈というのは心臓に血液を運んでいる動脈のことで、冠動脈疾患とは動脈硬化の結果起きる狭心症や心筋梗塞のことです。要するに動脈硬化が起きて、心臓発作のリスクが高くなるわけです。
ただしガイドラインに冠動脈疾患しか書いていないからといって、それが危険のすべてではありません。冠動脈のような太く血流の多い血管でトラブルが起きるほど血管が傷んでいる場合、脳や腎臓障害などのリスクも高くなっていると見るべきです。では、なぜ血中の脂質量と動脈硬化とが関係あるのでしょう。
メカニズムが完全に解明されたわけではありませんが、現在のところ有力なのは以下のような説です。
血管の壁の中に脂質が入り込むと、その脂質を食べて掃除する細胞も集まってきます。血管壁に脂質が入り込むのは主に、壁に傷がついた場合か、血中に脂質が多すぎる場合です。
ところが、この掃除そのものが炎症を引き起こし、血管壁にダメージを与えます。また、脂質の量が多かったり質が悪かったり(コラム参照)する場合は、掃除する細胞が「食べすぎ・消化不良」によって壁の中で死んでしまい、かえってゴミを増やします。まさにミイラ取りがミイラになるわけです。
結果として、死骸やその中に含まれたコレステロールが糊のように血管壁にへばりつきます。このへばりついたものを「アテローム」と呼び、アテロームの蓄積によって血液の流れる部分がどんどん狭くなるのが「粥状動脈硬化」です(前項図参照)。
いったん動脈硬化が始まると、高血圧(05年12月号「高血圧特集」参照)や腎臓障害(07年5月号「腎臓障害特集」参照)を引き起こしやすくなり、それがまた動脈硬化を進めるという悪循環になります。高血圧は、血管の壁を押す力が強くなることですから、壁に傷がつくのはお分かりですね。
また最近話題のメタボリックシンドロームの代謝異常(06年12月号「メタボリックシンドローム特集」参照)では、血管壁を修復する働きのアディポネクチン分泌が減るなどして、やはり動脈硬化が進みます。この代謝異常は、使われずに余った脂質を内臓脂肪が蓄えすぎた時に起きること、思いだしていただけたでしょうか。
喫煙は、LDLをより悪玉に変えます。 次項診断基準にも出てきますが、喫煙は動脈硬化のリスクを高めます。血管に傷をつけて免疫機構の発動(=炎症)を促すだけでなく、HDLを減らし、さらにLDLそのものにも作用して血管壁にこびりつきやすくします。これらの危険性は、禁煙することによって速やかに軽減されていきます。