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地域医療が危ないって どういうこと?

減り始めたら止まらない

 医療供給の過少さは、救急車の受け入れ先がなかなか決まらないとか、病院の診療科が縮小・閉鎖されるとか、極端な場合には病院そのものがなくなるという形で表面化します。たいていの原因は、医師を中心とする人手不足です。
 患者・住民側からは、その不便さだけに目が向きがちですが、舞台が官営病院である場合、自治体には別の危機も同時進行します。
 医師が在籍していなくても、病院で医師以外のスタッフの人件費は発生し続けます。しかも官営の場合、働く人の多くが公務員で簡単に減らせません。当然、赤字になります。例えば医師が定員より10人足りないとすると、それだけで10億円近い赤字が出てもおかしくないのです。早く手を打たないと、雪だるま式に病院の赤字が膨らんで、自治体そのものまで共倒れします。
 総務省でも、この危険性に気づき、自治体への指導に乗り出しています(次項コラム参照)。ところが、この「手を打つ」が、意外と難しい話です。
 まず、最近になって地域の官営病院の勤務医が減少してきた大きな原因の一つは、04年に導入された新たな卒後臨床研修制度(08年3月号参照)をきっかけに、若手医師の相当数が大学の医局に入らなくなったことです。大学病院は、これまで地域の官営病院に医師を派遣してきました。その大元の所まで、医師不足になったのです。
 また、医師定員を満たすのも一苦労です。官営病院の常勤医といっても、公務員として地域に骨を埋める覚悟の人ばかりではありません。むしろ一定の期間を勤めたら、派遣元の大学医局に戻るか開業するかと考えている場合が多いのです。この発想の違いが、根っからの公務員が揃う役所に理解されません。
 また、社会が高齢化し入院でも在宅でも医療を必要とする人は増え続け、一方で医療自体は複雑化して手間がかかるようになり、さらに15年前から医師養成数が減らされていたため、今の勤務医の負担は以前より随分重くなっています。そのことも余り理解されていません
 その結果例えば、医師の側は苦労を買って出ている専門職の人間として敬意を持って遇してほしいと願っているのに対して、開設者側は高い給料を払っているのに何の文句があるのだ辛抱が足りないんじゃないかと見なすようなズレが生じています。
 給料を上げなくても大事にすれば医師は居つくし増えるというのは、兵庫県立柏原病院でお母さんたちが「お医者さんを守ろう」と行動した結果で全国に知れ渡りました。大事に扱えば、個人の事情で離任する医師が出たとしても、後継者を期待できます。
 逆に、もし医師が勤務の過酷さを理由に辞職した場合、あの地域は医師を使い捨てにするという情報になって全国を駆け巡り、勤務条件を改善しない限り後継者は来ません。まして、定員を満たすなど夢のような話です。
 条件を改善するといっても、そもそもなぜ過酷だったか突き詰めると、自治体の財政に余裕がないか、ケチってきたからという場合がほとんど。元々それだけの規模の医療機関を維持する能力がなかったのに、ハコだけ作ってしまった結果とも言えます。
 ひとたび医師が辞め出すと、残った医師の勤務はさらに過酷になって次々と辞職が連鎖し、そして病院の赤字も膨らんでいきます。
 だから根本的な「手」とは、医師を含め働く人をきちんと処遇しても費用を負担できるよう身の丈にあった病院規模に縮小するか、近隣の市町村病院と合併し集約化するしかないことです。
 ただし、それは短期的には地域医療の後退と映ることでしょう。また集約化の場合は、医師だけでなく根っからの公務員である看護師や事務職員も集約する必要があるので、ある程度の時間がかかります。

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