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がん 治療の水先案内人 病理医
常勤のメリット 質はまた別の話
病理医が大事な役割を担っていることは何となくご理解いただけたと思いますが、その病理医が必ずしも病院に常勤で存在するとは限りません。あなたの受診病院は、いかがでしょう。
がん診療連携拠点病院ですら、その指定要件(09年8月号指定病院特集参照)では、専従の病理診断担当者を1人以上の原則常勤で置くということになっていて、認定医でなくても構いませんし、絶対に常勤でなくても構わないことになっています。
背景に圧倒的な不足がありますので、ケシカランと目くじらを立てる前に、病院に常勤の病理専門家がいると、どういうメリットがあるか考えてみます。
まず挙げられるのは、診断までのスピードが上がることです。常勤医がいなければ、非常勤医の勤務日まで待つか、検査会社に外注するかしかありません。
臨床診断と病理診断の結果が同じになるなら、少しぐらいの時間差も気にならないかもしれませんが、食い違ったらどうでしょう。特に、臨床医ががんを疑っていない時に、病理診断でがん細胞を発見したら、すぐ患者に連絡して対応する必要があります。
現実問題として恐ろしいのは、常勤病理医がいないような病院だと、臨床医が「がんを疑わない」時は、手術の摘出物などを病理診断に回さず済ませてしまっていて、結果的にがんの発見が大幅に遅れている可能性もあることです。
また、臨床医が病理診断に的確な組織を採取しなかったり的確な取り扱いをしなかったりしたことによって、病理診断不能となることもあります。これでは診断精度の低い状態で治療の進んでしまう可能性があります。病理医が常勤で存在すれば、臨床医にフィードバックすることで、そういうものの改善が見込めます。
必要最小限の治療にしたいという観点からは、さらに常勤医のいるメリットが高まります。手術をしないと標本採取できないような場合に、ちょっとだけ取ってがんかどうか判定したり、がん細胞がどこまで広がっているか判定したりする術中迅速診断というものがあります。その結果を踏まえて、手術中に最終的な治療方針を決めるものです。常勤医がいないと迅速診断できないので、「取り残したら怖い」と、切除範囲を必要以上に広くてして、入院期間が長引いたり術後の患者の負担が大きくなったりしがちです。
いずれにせよ病理医は責任重大なので、その診断精度の維持に細心の注意を払う必要があります。誤りの確率を減らすため、また互いに技量を向上させていくためには、一つの病院にできる限り大勢の病理医がいて相互チェックし合うのが望ましいとされています。
しかし、日本病理学会の07年時点でのまとめによれば全国に9千弱ある病院のうち病理専門医が常勤で働いているのは596施設に過ぎず、うち365施設は1人しか常勤医がいません。複数勤務していたとしても、同じく学会が05年に実施したアンケート調査では、全検査に対して2人以上の病理専門医がチェックしているのは、対象427施設中84施設に過ぎませんでした。