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がん低侵襲治療⑤ 大腸がん


88-2.6.jpg進行がんも腹腔鏡で

 腹腔鏡手術は、1990年代初頭に日本に入ってきました。「当初は、安全性が確立されていないとの考えから、大腸がんでの適応はステージ0もしくはⅠの早期がんに限られていました」と福長医長。
 しかし医師たちが慣れ、機器の開発・改良も進んだ(コラム参照)ことから、2002年には進行がんに対する保険適応も認めらました。遠隔転移のない大腸がん手術後の5年生存率は全国で約70~90%とされていますが、欧米では開腹手術と腹腔鏡手術で治療成績が大きく変わらないと報告されています。
「当院では、がんの広がりや性質にもよるものの、進行がんでもD3リンパ郭清までなら腹腔鏡手術を行っています。今では大腸がん手術の90%以上にあたりますね。私も週に3~4例、執刀しています」
88-2.7.jpg 手術の際に骨盤が邪魔になる直腸がんも、「腹腔鏡の方が奥までよく見渡せます」と福長医長。
 ただ、福長医長によれば、全国的な大腸がん腹腔鏡手術の普及はまだ「3割程度」なのだとか。
 「腫瘍やその周辺を含む全体像が見えにくかったり、カメラの死角で器具が臓器を傷つけかねない、というデメリットもあります。実際に触れないのも開腹手術との大きな違いです」と福長部長。医師個人の技量に依存する部分が大きいのも事実なのです。「とは言え、現在の医学生は腹腔鏡手術を標準治療として学んでいますから、将来的には全国でもっと普及していくでしょうね」
 ちなみに、開ける穴をおへそ一カ所だけにする「単孔式」腹腔鏡手術は、同院では現在行っていないとのこと。「今の器具や手法では、まだやりづらいです。手術の質が落ちては意味がありません」
 むしろ、「ニードルスコピックサージュリー(針孔腹腔鏡手術)は積極的に行っています」。開ける穴を最小3mm程度まで小さくした、通称「針穴手術」です。「1~2カ月後には針穴は全く分からなくなり、見た目も単孔式に劣らないんですよ」

他にも低侵襲化

 がん研有明病院では、患者の体への負担を軽減するために、腹腔鏡手術以外にも様々なアプローチが試みられています。
 まず、ステージ0とごく早期で、腫瘍が大き過ぎず、がん細胞の悪性度が高くない場合、内視鏡切除のみでの根治も可能となっています。症例数も年間100件に上ります。
 さらに、「胃がんについて当院で開発された腹腔鏡と内視鏡の合同手術(LECS)を、大腸がんにも導入し始めました。切除範囲をより小さく抑えることができます」。
 直腸の術前化学放射線治療も、同院では早くから積極的に取り入れています。
「直腸がんはタチが悪いことも多く、手術後の再発率が高いため、日本では、広範囲を切除する側方リンパ郭清が一般的です。これに対し欧米では、直腸周りのがんを抗がん剤(化学療法)や放射線照射で小さくしてから手術することで再発を防止しようとするのが主流です」
 特に肛門に近い直腸がんでは、どうしても人工肛門になる場合が多いのですが、術前化学放射線療法のおかげで人工肛門を使わずに済むケースもあるようです。
※大腸は、肛門から遠い結腸と肛門付近の直腸に大きく分けられます。

機器の発達が後押し

 腹腔鏡手術の発展の陰には、手術機器の発達がありました。中でも画期的だったのが、超音波凝固切開装置とベッセルシーリングシステムです。
 前者は、幹部の切開と止血を同時に行える手術器具で、1990年代後半に開発されました。刃先に超音波が走り、その振動で摩擦熱が発生して切り口を瞬時に焼き固めます。
 2000年代に入って誕生・改良が進んだ後者は、ハサミ状に二股に分かれた先端の間に電気が流れ、はさんだ血管を熱で確実に閉鎖します。周囲の組織への影響が少ないのも利点です。
 このように縫わないでも安全・迅速・確実に止血できる技術ができ、その機器がどんどん細くなったため、「針穴手術」なども可能になってきたのです。


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