がん低侵襲治療⑤ 大腸がん
大腸がんでも、低侵襲化の代表的な取り組みは、腹腔鏡手術です。2012年5月号の胃がん手術でもご紹介したように、開腹手術なら文字通りお腹を15cm以上切り開くのに対して、傷が非常に小さくて済みます。
具体的には、炭酸ガスでお腹を膨らませて空洞を確保、おへそを切って内視鏡に似たカメラ(腹腔鏡)を入れ、それでお腹の中や患部をモニターに映し出し、さらに周囲数カ所に開けた小さな穴から鉗子やメスなどの器具を入れて手術を行います。
傷口は最大でも1cmほど。それが数箇所ですから、合計でも数cmです。それが術後に縮んで、「ほとんど目立たなくなる」と福長医長は言います。
「ただ、手術の中身、つまり腫瘍やその周りをどう処置するかは、開腹手術でも腹腔鏡手術でも変わりません」と福長医長は念を押します。がんのある腸管と、がんの広がりによってはリンパ節を切除(リンパ節郭清)し、周囲に浸潤していればその器官・臓器も一緒に切り出すのは同じ、ということです。
それでも傷が小さく済むことは、見た目以上にメリットをもたらします。
痛み少なく回復早い
福永医師によると、「痛みも出血も少ないです。術後の腸の動きの回復が早く、合併症(傷口の感染や腸閉塞等)が少ないことも分かってきました」。結果として、腹腔鏡手術だと開腹手術より3日ほど早く退院できるそうです。
腸の動きの回復が早いのは、「恐らくお腹の中が大気にさらされないから」とのこと。開腹の場合は、濡れた布などを巻いて保護しても、腸や臓器が乾燥してしまうのだそうです。
手術時間は「開腹で2~3時間、腹腔鏡で3~4時間」と、腹腔鏡の方が少し長いのですが、乾燥のこともあって開腹手術は急いで終わらせなければならないのに対して、腹腔鏡では丁寧に出血を抑えることができるとも言えそうです。
おへそを切って大丈夫?
おへそを切って腹腔鏡を差し入れるメリットは、何と言っても術後に傷が目立たなくなることです。しかし、おへそから入れるようになったのは、実は「ここ5年程のこと」(福永医師)。随分と最近なんですね。
「へそのゴマを取ってはいけない、と言われますよね。汚れがたまりやすいため、感染の原因になると考えられて避けられてきたんだと思います。でも実際には、へそを切った方がよかったんです」
何事も印象だけで決めつけてはいけませんね。