化粧すると健康感が上がる~それって本当?
顔を手入れすると、元気になるそうです。しかも、その効果、女性だけでなく男性にもあるのだとか。
専任編集委員 堀米香奈子(米ミシガン大学環境学修士)
東京都健康長寿医療センター高齢者健康増進事業支援室の大渕修一研究副部長のチームと資生堂による共同研究(コラム参照)の結果、自宅で顔の肌の手入れを毎日行い月に2回の美容教室に参加した高齢者は、自己評価による健康感(主観的健康観)が上がり、うつ傾向も改善しました。
後述するように主観的健康観は、要介護へのなりやすさと関連しているため、この主観的健康観の向上によって、1人あたり月額約1185円(約13,6%)の介護費用削減を期待できるそうです(みずほ情報総研による評価)。
健康と思えば健康
大渕副部長たちは、主観的な健康観と要介護の発生状況についても長期的に調査しています。その結果、主観的健康観が悪くなるにしたがって要介護となる確率も高まることが分かっています。今回の毛級では、主観的健康観が最も良い人たちに比べ、最も悪い人たちの要介護発生率は70倍にもなっていたのです(グラフ)。
「体力や心理状態、環境、高次生活機能※といった客観的状況と介護認定は必ずしも直結しません。身体に障害を抱えていたとしても、本人が『大丈夫。自分は元気』と思っていれば、その人は大丈夫なのです」と大渕副部長。
歳をとることは、すなわちできなくなることや体の不調が増えていくことでもありますが、「マイナス面にばかり目を向けても仕方ありません。これはこれで仕方ない、と、今できることに前向きに取り組んでいけばいいのです」。
褒められると嬉しい
「前向き」になれるかどうかは社会との接し方にあるようで、その際に身だしなみは重要です。
というのも高齢女性の場合であれば、入院を機にすっぴんを見られても平気になってしまったりして、化粧をやめてしまう人が多いようです。男性の場合は、そもそも習慣のない人がほとんどです。
そこに冒頭のことを続けてもらった結果、女性はもちろん男性にも、意識の変化が見られたのだと言います。「おしゃれに無頓着だった人が素敵なマフラーをして現れたりと、目に見えて変わりました。互いにその変化を品評し合ったりして、美容教室は毎回大変にぎやかでした」と大渕副部長は話します。
化粧や肌の手入れそのものよりも、人から「変わったね」「今日は何だか素敵じゃない」と褒めてもらうことが刺激になって元気になる、というわけです。身だしなみに気を遣えば人に褒められ、認められたことが嬉しくてますます気を遣うという好循環が生まれるようです。
「男女が一緒になって披露し合った方が、どうやら盛り上がるようです。女性は元気良くお喋りですし、男性も女性から色々指導を受けながら『女性は大変だねえ』『こんなことやったことないよ』などと言いながら、まんざらでもない様子でした」
不自由を「不幸」ととってしまうのか、それとも「不便だけど何とかなる」と思うのか。気の持ちようで現実に体の動きも調子も違ってくるのなら、一歩踏み出すきっかけとして、身だしなみを整えて街に出てみるというのは、手軽で楽しい素敵な手法と言えそうです。
※日常動作の自立に加えて、①掃除や食事の準備など道具を操作しての家事、金銭の管理を行う手段的自立、②新聞や書籍を読み、会話を楽しみ、楽しませるといった知的能動性、➂他人を思いやる、相談に乗る、若い世代との積極的な交流などの社会的役割、の3つがどの程度できるかで判定される。
コラム 実験の詳細経産省の平成26年度健康寿命延伸産業創出推進事業として行われました。2014年7~9月もしくは10~12月の3カ月間、介護福祉施設の入所者、回復期リハビリテーション病院に入院している高齢患者、急性期病院に外来通院している高齢者、地域在住の高齢者を対象に、それぞれ月2回、美容教室を開催してスキンケア(肌の手入れ)のための乳液を配布、対象者は原則毎日、自宅でスキンケアに取り組みました。その結果、冒頭の効果が見られ、外出の頻度も比較対照群に比べて高く維持されました。