無煙タバコでも受動喫煙は発生 ~それって本当?
公共の場の禁煙化が進み、煙の出ない「電子タバコ」「加熱式タバコ」への注目が高まっています。紙巻タバコの喫煙者が、これらに乗り替えたら万事解決でしょうか?
専任編集委員 堀米香奈子(米ミシガン大学環境学修士)
「電子」「加熱式」のどちらも、火を使わず、専用の電気器具を使って発生した蒸気に交じる味や香り、特有の成分をたしなむものです。
煙が出ないのは共通しますが、中身は完全に別物で、法的にも扱いが異なります。と言っても、非喫煙者には両者の違いが今一つピンと来ませんよね。それぞれの特徴と懸念される問題について、以下に説明します。
意図せず有害物質
日本で以前から流通している「電子タバコ」は、カートリッジに入った液体を電気で霧状にして吸引します。煙の代わりに味や香りのついた蒸気を吸う、ということ。第一世代は紙巻タバコに似た形状でしたが、その後、バッテリー容量が大きくなり、液体が補充式になるなど、見た目も大きく変わりました。
通常、国内では「ニコチンを含まない」と表示して販売されています。ニコチンは医薬品なので、含まれる場合は有効性や安全性について医薬品医療機器等法(旧薬事法)に基づく承認を受ける必要があり、承認された製品はありません。
タバコの葉を使わないので、「たばこ事業法」の指定する「たばこ」(植物)や「葉たばこ」「製造たばこ」に該当せず、未成年でも購入できます。また、タール(タバコの有害粒子の総称、いわゆるヤニ)を含まず、一酸化炭素も発生させません。
こうした特徴から、受動喫煙の心配もなく、禁煙の場所で気晴らしに吸える、とされてきました。
しかし実は、蒸気中に刺激成分やホルムアルデヒドなど数々の発がん化学物質が確認されています。平均すれば低濃度ながら、製品ごとのバラつきが大きいため、絶対安全とは言い切れないものがあります。特にホルムアルデヒドに関しては、紙巻タバコの主流煙より高濃度だった例も報告されています。
「これらの物質は充填液自体には元々ほとんど含まれていないのですが、それが電気加熱されて分解されることで意図せず生じ、蒸気に混じると見られます」と国立保健医療科学院・生活環境研究部の欅田尚樹部長は説明します。
この蒸気の成分が周辺の人たちに影響を与えないか、まだ分かっていません。2010年には、ニコチンを含む電子タバコが複数確認され、厚労省が注意喚起しています。
また、禁煙の助けに使おうとした場合、すっぱり禁煙を断行した人に比べて、7カ月後に2分の1から3分の2しか禁煙できていなかったという海外の調査があります。禁煙外来などでパッチやガムを使ってニコチンを徐々に減らすの(ニコチン代替療法。市販薬として薬局でも買えます)と違って、電子タバコが、かえって禁煙を妨げている可能性もあるわけです。
発がん物質を放出
一方、急速に注目を集めている「加熱式タバコ」は、タバコ葉の加工品(スティックやカプセルなど)を使い、たばこ事業法の規制対象です。「ニオイが少ない」「煙が出ない」など、周囲への迷惑が少ないと宣伝されていますが、蒸気はニコチンも含みます。
今年7月、「米国医学会雑誌」に掲載された論文では、加熱式タバコが発がん物質を放出することが明示され、議論を呼んでいます。
同論文では、加熱式タバコは紙巻タバコと同レベルの揮発性有機化合物(ホルムアルデヒドなど)とニコチンを発生させ、ある種の発がん物質は紙巻タバコを上回るレベルだったと報告しています。
これまで中立な立場で各種タバコの影響を調査、公表してきた国立保健医療科学院は、「同様の分析を進行中」だとしています(欅田部長)。
また、産業医科大学の大和浩教授たちは、加熱式タバコから発生し、吸い込んだ際に肺に至らなかったエアロゾル(気体中の微小な液体・固体の粒子)が、呼気と共に排出される様子を可視化。空気の汚染を明らかにしています。
日本禁煙学会は昨年4月、加熱式タバコについて、「紙巻タバコと違い、発生する有害物質が見えにくい。(中略)周囲の人々は受動喫煙を避けられず、かえって危険である」と、公共の場での使用禁止を求めました。
リスクが科学的に明らかになりつつある今、これら煙の出ないタバコも、紙巻タバコと同じと見て、受動喫煙対策しておくのが安全そうです。