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今年こそサヨナラ 水虫さん
さて、問題です。水虫は、なぜ水「虫」と呼ばれるのでしょうか。原因がカビの仲間だというのは説明した通りです。カビと虫とでは随分違った生物なのに「虫」。不思議に思ったことはありませんか。
この不思議な名前の由来は、こう説明されています。江戸時代までは今と違って、ほとんどの人が素足の乾燥しやすい環境で過ごしており、水虫は季節限定・職業限定の疾患でした。主に悩まされていたのは、田んぼ仕事をするお百姓さんです。田んぼに入ると、足が痒くなったり水泡ができたりするので、彼らは水の中の虫に刺されたに違いないと考えました。だから「水虫」というわけです。陰部や体の水虫を指す「タムシ」も、「田虫」という字をあててみれば、同じ発想であることが分かりますね。
大いなる勘違いではありますが、田んぼに入る時期が過ぎれば何となく症状も治まってしまいますし、完全に治す薬もなかったので、虫の仕業と思っていても生活上の問題はなかったはずです。
しかし、現代は話が違います。後ほど詳しく説明しますが、まず、治そうと思えば治せる薬があります。一方で、温度が一定で気密性の高い居住環境に暮らし、四六時中靴を履いて足が蒸れている、そんな人が大勢います。白癬菌の活動が、季節や人を選ばなくなってきているのです。
つまり完全に絶交するか、どっぷりお付き合いするか、どちらかになりがちなわけです。といっても、進んでお付き合いしたい人はいないと思います。少し気合を入れて、敵のことを見てみましょう。
20種類程度ある白癬菌は、ケラチンというたんぱく質が好物で、溶かして吸収します。ケラチンは皮膚の細胞が死んで角質化した時の主成分です。毛や爪も主成分はケラチンです。要するに、白癬は固くなった皮膚や毛に寄生すると思っていただけば間違いありません。
単に白癬菌が皮膚にくっついているだけなら痒くはなりません。しかし角質を溶かしながら徐々に入り込んで、生きている細胞との境界まで達すると、「すわっ、侵入者だ」と防御反応が働き出します。この時、生きている細胞が痒みを感じる物質を出したり、炎症を起こしたりするのです。
水虫が単に痒いだけなら、目くじらを立てずに放置する手もあるでしょう。しかし、皮膚は、外界に対するバリアの役割も持っています。防御反応で炎症が起きると、皮膚に傷がついてバリアに穴が開くことになります。別の細菌がそこから侵入してきて、蜂窩織炎を起こしたりすることも多くあります。特に糖尿尿の方は末梢の感覚が鈍くなっているため、切断に至るようなこともあり要注意です。
皮膚は約1ヵ月で生まれ変わります。 皮膚は外側から、「表皮」、「真皮」、「皮下組織」の三層構造になっています=図。表皮は通常1mm以下の厚さで、毛穴と汗腺の部分を除くと細胞が隙間なく詰まって、外部からの侵入をブロックします。 表皮は、一番下の基底細胞が次々に分裂して徐々に外側へと押し出され、約1ヵ月で垢として剥がれ落ちます。白癬が取り付くのは一番外側の角質層です。たとえ取り付いても、他の細胞に根を伸ばすより剥がれ落ちる方が早ければ水虫にはなりません。