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気づくかが分かれ目 脳卒中
脳卒中の場合、一刻も早く専門の医療機関へ運び、きちんと診断をつけることが肝心です。というのも、原因によって治療法が異なり、たとえば出血なのに梗塞と間違えて治療したりすると大変なことになってしまうからです。
また、家族や一緒にいた人は、最初に異常の起きた時刻を覚えておいてください。脳梗塞だった場合、時間を覚えていると血栓を溶かす薬を使える可能性があります。
診断をつけるには、CTやMRI、血管造影レントゲン、血流検査など、脳内の画像検査が欠かせません。治療も、かなり専門的になります。少なくともこれらの機器を備えた救急部門か神経内科か脳神経外科のある医療機関を選ぶ必要があります。こういった医療機関がかかりつけでもない限り、脳卒中かもしれないと思ったら迷わず救急車を呼びましょう。
さて診断が確定したら治療です。アテローム血栓性脳梗塞か脳塞栓で、まだ発症から3時間経っていない場合、血栓を溶かすtPA(組織プラスミノーゲンアクチベータ)という薬を使うことができます。血流の回復に成功すると、壊れる脳組織を最小限に食い止めることができます。
使えるのが3時間以内と定められているのは、血流の途絶えた血管はどんどん脆くなっていき、血流を再開させた時に今度は破れてしまう可能性が高くなるからです。
時間が経てば経つほど、脳組織が既に回復不能に壊れてしまっている可能性が高くなり、危険を冒して血流を再開させても機能回復が見込めなくなります。
この段階の治療は、生き残った脳を保護することと、梗塞の続発を防ぐことが目的になります。活性酸素の消去剤を用いたり、抗血栓薬や血小板の働きを抑えるような薬を使ったりします。
脳内出血の場合、意識状態(前頁表参照)によって治療手段が異なります。意識障害がない場合は、内科的治療が選ばれるのが一般的です。当面の出血は比較的少ないとみられますが、発症直後は出血が拡大して重症化する可能性があります。まず緩やかに血圧を下げて再出血を防ぎます。また脳が腫れると、頭蓋骨の中で行き場をなくして、脳組織が潰れてしまうため、腫れ(浮腫)を軽くするような薬も用います。
意識はあるものの異常だという場合には、放っておくと生命の危険があるため、血腫を取り除く外科的治療が選択されます。頭蓋骨に小さな穴を開けて血腫を吸い取る方法と、頭蓋骨を取り外(開頭)して直接血腫を取り除き、止血もする方法とがあります。前者の方が患者にとって負担は軽い代わりに、出血部位を直接見ることができず止血操作もできないという弱点があります。
どんな刺激を加えても全く反応のない深昏睡の場合、残念ながら全身状態を管理する以外には手の施しようがありません。
くも膜下出血は原因が脳動脈瘤の破裂(次項コラム参照)であることが多く、深昏睡の場合はやはり手の施しようがありません。しかし、意識がある場合には、脳動脈瘤破裂の連鎖を防ぐため、残された脳動脈瘤に血が行かないようにする治療が行われます。
この方法としては長く、開頭して動脈瘤の根元をクリップで掴んで血流を止める「クリッピング術」が行われてきましたが、近年、脚の付け根の血管からカテーテルを通じて動脈瘤の中にプラチナ製のコイルを押し込み、瘤の中を埋めてしまう「コイル塞栓術」という方法も行われるようになってきました。どちらにしても非常に高度な技術を要する治療です。
また発症後3日ほど経過すると、血管が収縮して血行の悪くなる「脳血管攣縮」という脳梗塞に似た状態になることが多いので、全身をめぐる血液の量を多めに維持するなど、その治療も欠かせません。
いずれの場合も、症状が落ち着いて急性期の治療がひと段落したら、リハビリと再発予防の全身状態管理とを並行して行うことになります。