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「早く追い出せ」 ─ DPC点数表見直し案

坂本すが委員(手前)0805.jpg 「早く追い出せ」─。脳卒中などで入院した患者の早期退院をさらに加速させる改定案が決まった。(新井裕充)

 厚生労働省は8月5日の中医協・基本問題小委員会(委員長=遠藤久夫・学習院大経済学部教授)に、2010年度の診療報酬改定でDPCの入院1日当たり点数の設定方法を変更すること提案し、了承された。

 厚労省は、「実際の医療資源の投入量に合わせた診断群分類点数表に見直す」と説明している。しかし、入院初期の点数を引き上げ、長期化した場合の点数を下げるため、これまでよりも入院期間短縮のインセンティブが増す。早期に退院させても次の入院患者が待ちかまえているようなベッド稼働率が高い病院にとっては歓迎すべき改定といえる。

 今回の提案は、中医協の基本問題小委員会に諮られる前に、中医協下部の専門組織「DPC評価分科会」で6月29日に議論され、既に了承されている。

 同分科会の委員は全体的に大病院を優遇する傾向が強いが、今回の提案は議論が紛糾した。6月29日の同分科会で、厚労省の提案を強く支持した伊藤澄信委員(独立行政法人国立病院機構医療部研究課長)は次のように主張している。

 「今の現場の状況から言うと、『入院期間Ⅱ』の平均ぐらいのところが一番儲かっていて、それ以上(入院期間を)長くしても短くしても収益が悪くなるので、平均在院日数が欧米に比べて縮まない原因はそこにある。(今回の提案は入院期間が)短い方にインセンティブが働き得る構造」

 この発言に委員らが一瞬さわついたが、委員から「早く追い出せ」との笑い声もこぼれた。平均在院日数の短縮に理解のある西岡清分科会長(横浜市立みなと赤十字病院長)は、やや不安げな表情で次のように述べた。
 「伊藤先生、『入院期間Ⅱ』まではいいかもしれないが、(さらに入院期間が経過した)『特定入院期間』のところがガサッと減ってしまうということも起こり得るかもしれない。そのあたり、ものすごい複雑な患者さんを受け入れている病院がかなりマイナスになることも起こり得る......」

 これに対し、伊藤委員が次のように主張し、大筋で了承された。
 「あまり、『外国が』という話はしたくないが、わが国の平均在院日数が長いのは、(早期退院に)インセンティブが働いていないので、今のままで(早期に退院させなくても)いいという形になっていると思う。ちゃんと医療機関の(機能)分化を進めていくためには、ある程度の痛みを伴うのかなと思う。ある病院のデータで、出来高(実績点数)とDPC点数との差を見ると、平均在院日数が長くなる方が収益が大きくなるという現状。平均在院日数を短くする仕組みとして、現在のままでは十分ではない」

 その後、7月24日の同分科会で正式決定し、今回の中医協・基本問題小委員会に上がってきた。DPCに否定的な日本医師会の委員は、もちろん平均在院日数の短縮化の問題を指摘。経営悪化を心配する病院団体の委員は「トータルでの収入はどうなるのか」と指摘したが、最終的に中医協を通過してしまった。

 次期改定がプラス改定ならば、厚労省案の問題点は顕在化しないのかもしれないが......。DPCの点数表の見直し案を了承した8月5日の中医協・基本問題小委員会の議論をお伝えする。

 ※ 6月29日の中医協・DPC評価分科会の議論は、「次期改定で、脳卒中患者らの追い出しが加速?」をご覧ください。


 【目次】
 P2 → 「2種類の設定方法を3種類にしたいという案」 ─ 厚労省
 P3 → 「トータルの医療機関の収入はどうなのか」 ─ 西澤委員(全日病)
 P4 → 「入院期間の短縮が進むが、受け皿があるのか」 ─ 藤原委員(日医)
 P5 → 「これでいいが基準は必要。全体感がよく見えない」 ─ 対馬委員(支払側)
 P6 → 「早く退院させるのか、行動が変容するか」 ─ 坂本専門委員(日看協)

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