政権交代で、リハビリはどうなる?
「脳卒中難民があふれている。めちゃくちゃなことになった」─。前回の診療報酬改定で、成果主義が導入されたリハビリ現場は混乱を続けている。政権交代によって、"リハビリ改悪"の流れが断ち切られるだろうか。(新井裕充)
「国民皆保険と言いながら、リハビリを受けられない患者が増えている。これは平等権を保障した憲法に違反するのではないか」─。埼玉県内のリハビリ病院の院長は怒りを隠せない。
「これまでは、急性期病院で治療した後に回復期病院で集中的にリハビリしてから在宅に帰るという流れだったが、最近では回復期病院をすっ飛ばして、無理矢理にでも在宅に戻す傾向が多いと聞く。在宅ではまともなリハビリを受けられないので、そのまま回復せずに死ぬまで寝たきりになってしまう」
なぜ、こんな事態になっているのか。2008年度の診療報酬改定では、リハビリテーションの入院料に「質の評価」という名目の成果主義が導入された。「重症患者の受け入れ15%以上」「在宅復帰率60%以上」などの基準をクリアしないと、点数が大幅に引き下げられてしまう。
つまり、重症患者を多く受け入れると、改善度合いや在宅復帰率が下がってしまう。このため、リハビリスタッフが不十分な小規模リハビリ病院では重症患者の受け入れを拒否するケースが多いという。一方、重度の患者を多く受け入れてきたリハビリ専門病院でも、在宅復帰率を下げないように「入り口」を制限しているという。
リハビリ病院の院長は「他院で断られた重症患者が増え、在宅復帰率が1割下がった」と嘆き、「重症患者の受け入れが20%なら在宅復帰率は50%にするなど、『入り口』と『出口』の数字を連動させなければおかしい」と指摘する。
さらに問題なのが、「質の評価」の内容。「寝返り」や「起き上がり」などが「できる」「できない」という項目で、患者の重症度や改善度を測る。これはもともと、看護に掛かる手間(看護必要度)を評価する基準なので、リハビリの質を評価するには適していないという。
例えば、「どちらかの手を胸元まで持ち上げられる」という項目は、片まひで右腕が上げられなくても左腕が上げられれば「できる」と評価される。このため、身体機能がかなり重度に低下していないと重症患者とされず、「15%以上受け入れ」という基準をクリアすることが難しい。
「在宅復帰率」も問題で、老人保健施設への入所は在宅復帰とみなされない。また、在宅に復帰できるかどうかは家庭の事情に左右されるため、改善したからといって自宅に戻れるとは限らない。独り暮らしの老人や老々介護、生活保護の受給者など、身体機能が回復しても在宅復帰できないケースがあるため、「リハビリの質と在宅復帰率は相関しない」という声もある。
リハビリの診療報酬をめぐっては、06年度改定で導入された「日数制限」、翌4月に異例の再改定で導入された「逓減制」など、医療費抑制を目的とした相次ぐ改悪が批判を浴びてきた。
しかし、それでも厚生労働省は懲りずに「質の評価」という名目で、診療報酬が下がる仕組みを導入した。その上、来年4月の診療報酬改定では、急性期病院の入院期間をさらに短縮させる方針が決まっているため、このままではリハビリを受けられない"脳卒中難民"があふれることが懸念される。
今回の総選挙では、比例東北ブロックから立候補した民主党新人の山口和之氏(福島県理学療法士会会長)が当選した。リハビリ問題の解決に向け、民主党がどのような政策を進めるかが注目される。
民主党の政策集(詳細版)は、「包括払い制度の推進」の項目でリハビリの診療報酬に触れている。政策集では、「超急性期・回復期・維持期リハビリテーションについては、その重要性を考慮し、当面は出来高払い制度としますが、スタッフの充実度および成果を検証し、将来的には包括払い制度に組込みます」としている。
リハビリの診療報酬を包括払いにすることは、短時間で効率的なリハビリができるセラピストの技術力向上につながるなどのメリットもある。しかし、経営効率を重視する事務方の権限が強い病院では、短期間で強制的に退院させる方向に進む危険性もある。
リハビリへの「成果主義」の導入は、中央社会保険医療協議会(中医協)でほとんど議論されずに決まった。今後は、現場の声を十分に踏まえた医療政策に期待したい。採算が合わなければ、"医療難民"は続出する。