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医師が育つまで
医師免許取り立ての医師は2年間の研修を義務づけられていること、ご存じでしょうか。
来年度その中身が変更されることになって、医療業界は大揺れです。
ただ、一般人からすると何がどう変わったのか、そもそもなぜ免許を持っているのに重ねて研修が必要なのか、だったら医学部では何を教えているのか、基本的なことがよく分かりません。
監修/河北博文 河北総合病院理事長
嘉山孝正 山形大学医学部長
4年終了時に試験
本題に入る前に念のため、臨床研修の「臨床」という言葉を説明しておきます。簡単に言うと、直接患者の診療に当たること。分かりやすくするために対義語を挙げるならば、「座学」とか患者を相手にしない「模擬」などになります。
わざわざ臨床研修が免許取得後に義務づけられたということは、その段階では臨床経験が足りないと多くの専門家が判断したことになります。医師養成に関しては世界でも定評のある米国のメディカルスクール(医師養成課程)が4年制で、卒後すぐに医師として働き始めることを考えると、日本の医学部が6年もかけて何を教えているのかと気になるところです。
日本の大学生は勉強しないで遊んでばかりだから、と自分の経験などに照らし考える方もいるでしょうが、今から説明するように、実は後ろに試験が待っているので医学部の学生たちは結構勉強しています。はてさて。
まず医学部の標準的な流れを下図でご紹介しましょう。
業界外の方からすると、4年終了時に行われる「共用試験」は何それ? だと思います。医師養成課程を持つ全80大学が同じ試験を行っています。これがあることによって、遊び呆けていると5年以降の実習に進めず医師免許も取れないようになりました。
コンピューターを使って知識を問う「CBT」と実際の診察場面を再現して態度などを見る「OSCE」(客観的臨床技能試験)の2種類があり、CBTの方は文部科学省の定めた「モデル・コアカリキュラム」(コラム参照)から出題されています。合格の点数は大学によって異なるものの、それを突破すると晴れて臨床実習へと進むことができます。
実習は、「ポリクリ」(ポリクリニック)や「クリクラ」(クリニカル・クラークシップ)などと呼ばれ、大学病院や協力施設となっている市中病院の、ほぼ全ての診療科を少人数グループで一通り回ります。
あれ、臨床に出てますね。臨床研修との関係は次項以降でまた考えることにしましょう。この後、6年生の終わりに卒業試験と医師国家試験とがあって医学部の過程が終わります。
モデル・コアカリキュラム 医学が急速に複雑化・高度化して1人の人間が網羅することは不可能になったことと、現在正しいと思われていることが数年後に誤りとされる可能性もあるという医学の特性を踏まえた考え方から、何でもかんでも詰め込むという医学部の伝統的教育方針は放棄され、特に重要な基礎的知識と、生涯に渡って勉強し続けるような態度を身に付けることに主眼が置かれるようになりました。この特に重要な基礎知識がコアカリキュラムで、文部科学省が示したモデルを各大学でアレンジしながら使っています。