〔新生児医療の教育現場から①〕若手医師から医療界に提言し、現場を変える
「この教育セミナーの中で、若手医師にNICUの交替制勤務や看護師との連携などを考えていってもらいたい」-。若手医師に今の新生児医療の在り方を考えてもらい、新生児科医同士のネットワークを作ってもらおうと、日本未熟児新生児学会(戸苅創理事長)の2泊3日の教育セミナーが長野県安曇野市内で開かれた。医師不足の解消を図るための医学部定員増が決まった中、若手医師の教育は医療界全体の喫緊の課題だ。医師不足が深刻な周産期医療界の中でも、特に少ないと言われているNICUで働く新生児科医の教育現場の様子を取材した。(熊田梨恵)
■〔新生児医療の教育現場から②〕主治医制と交替勤務制、よりよい労働環境は?
■NICUについての詳細は、こちら
「我々の提案する日本版NNP(Neonatal Nurse Practitioner...医師に代わり一定の医療行為や薬の処方などを行う新生児専門看護師)は、医師と看護師間、医師と患者間の架け橋になります」。会場に若手医師のプレゼンテーションの声が響く。「NICUでの看護との連携」をテーマに取り組んだグループからは、新生児専門のNPを日本のNICUに取り入れていく可能性や、NPにふさわしい業務などが報告された。ほかにも、交替制勤務や臨床研修など様々なテーマでのグループ発表が行われ、自作したスライドなどを元に、寸劇も交えながらそれぞれの主張が展開された。
日本未熟児新生児学会が毎年夏に開く、若手医師向けの泊まり込みの教育セミナーは今回で13回目を迎えた。今回の参加者は60人とこれまでで最も多く、女性医師も26人と半数近い。
このセミナーが始まった1997年は、国内で周産期母子医療センターの整備が始まった頃。新生児医療は人手や手間がかかるといった理由から、大学ではなく周産期母子医療センターや公立の子ども病院を中心に発展してきた。研修医は大学医局を離れて一般病院で研修してきたため、新生児科医は各大学の縦のネットワークよりも、新生児医療従事者同士の横のつながりが強く、その中で情報交換やリクルート活動が行われている。新生児科医の養成や医師確保が今後の課題になると予想した当時の学会幹部らが、こうした水平ネットワークの継続や、若手医師への技術と知識の継承を目的にこのセミナーを始めた。
国内で新生児医療に関わる医師は正確に把握されていないが、日本未熟児新生児学会の会員数は3056人(2008年)で、日本小児科学会の1万9300人と比べると約6分の1にとどまる。
■過重労働と医師不足の新生児科
今の医療界は、医師不足と教育に関する対策を両輪で進めていく必要に迫られている。
医師不足が言われる周産期医療界の中でも、新生児科医の不足は深刻だ。杏林大小児科の杉浦正俊准教授が新生児医療連絡会の会員医師約400人に行った調査によると、「新生児科医を継続する意志と期間」について、「指導医世代」では「一生続ける」が40%いるのに対し、「研修医世代」ではわずか8%。「研修医世代」では、「続けるかどうか未定」が52%と過半数で、年齢が下がるほど新生児医療を続けたいと思う人が少なくなっていた。この背景には、平均当直回数が月6回で、当直翌日も通常勤務をしている人が80%といった新生児科医の過酷な労働環境がある。残業時間を含む平均在院時間は推定で月300時間を超え、平均睡眠時間は3.9時間、月の休みは平均1.8回 という状況だ。セミナー参加者からも、「早く帰ってたまには自分がご飯を作りたい。家族との時間を大切にしたい」「この環境では今後も新生児科を続けていけるかどうか、本当に悩んでいる」といった声が聞かれた。
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