〔新生児医療の教育現場から②〕主治医制と交替勤務制、よりよい労働環境は?
「NICUの交替制勤務の実現で『協力、安定、標準化』の医療を約束し、若手医師が集まる魅力的な労働環境を提供します」、「日本の周産期死亡率世界一に導いた、『人情、根性、責任力』の主治医制を維持していきます」-。新生児医療に携わる研修医が、主治医制と担当医制の是非について、学会の教育セミナーでプレゼンテーションした。今の若手医師は、医師の労働環境をどう考えているのだろうか。(熊田梨恵)
■〔新生児医療の教育現場から①〕若手医師から医療界に提言し、現場を変える
■NICUについての詳細は、こちら
日本未熟児新生児学会(戸苅創理事長)が、8月20日から3日間開いた若手医師向けの教育セミナーではグループによるワークショップの報告会が行われた。「NICUにおける交替制勤務の賛否」のテーマを選んだグループは、主治医が患者を一対一で担当し、急変時には昼夜問わず駆けつける「主治医制」と、患者の情報をチーム内で共有し、交替制勤務の中で当日の担当医が患者を診る「担当医制」について、メリットとデメリットを聴衆である他の参加者にも理解してもらうため、寸劇でプレゼンテーションした。それぞれを"政党"としてマニフェスト評価する形で表現した。
「私たちは根性で生まれたばかりの赤ちゃんをそばで支え続けます」。主治医制を主張する「主治医保守党」は、「人情、根性、責任力」をキーワードに今後も従来行われてきた主治医制を維持するとした。それに対する「交替実現党」は、「協力、安定、標準化」をテーマに、交替制勤務の中でチーム医療体制を敷き、標準治療や医療に対するフィードバックを行っていくとした。どちらが医療者や患者によってよりよい医療現場となるのだろうか。
■日本の医療は「主治医制」中心
日本の医療は主治医制を中心に展開してきた。欧米では交替勤務を取り入れた担当医制を取り入れている国や地域もあり、医師の労働時間を週48時間(オンコール含む)と規定しているEUでは二交替制や三交替制での勤務形態がほとんどだという。"医療崩壊"が叫ばれる中、医師の労働環境が労働基準法に違反している(こちらやこちらを参照)として交替制勤務を求める声が上がるようになってきたものの、医師不足の上、医療者と患者の双方に主治医制が浸透している現場への導入は困難が予想される。医師労組の全国医師ユニオンの植山直人代表は「日本では主治医は365日24時間、責任を果たさなければならないという意識があるし、患者もそういうものだと思っている。だが、主治医も人間だからそうはいかない」として、担当医制への理解を求めている。ただ、若手医師への教育という観点から、研修医時代は患者につききりで働いたり、一例でも多く臨床を学んだりする方が良いとする声もある。
このグループががプレゼンテーションのために議論した際に各自の病院の勤務体系が報告されたが、ほとんどが主治医制で、一部に複数主治医制を取り入れてチーム医療を展開している病院もあった。