情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。
医師が育つまで
臨床研修が この形の理由
さて、臨床研修必修化と同時に改正された医師法によって、医師免許を取っても2年間の研修修了までは指導医の適切な指導のもとでのみ臨床に携わることができ、単独での「診療行為」はできなくなりました。
今年度までは最低でも7つの必修診療科をぐるぐると回るスーパーローテートで行われていて、それが来年度から緩やかになるわけです(コラム参照)。見直しされるだけの理由はあって、医師法改正で研修医の行える範囲がよく分からなくなったうえ、一つの科にいる研修期間が短くなって、手技や約束事を覚えた頃には他の科へ異動で、実地に揉まれるより「お客さん」になりがちという弊害が指摘されています。
「お客さん」ならば学生の時の臨床実習とよく似ていて、重複でないかと思うところですが、それでもやはり学生の時の実習と医師になってからの研修とではかなり内容に差が出ます。
差が出る理由の大きなものは、①医学生が医療行為を行うことに対して、国民の合意が十分とは言えず、法的根拠も曖昧で指導する側も不安なので見学主体になってしまう②医師国家試験の準備として、大学によっては臨床実習そっちのけで座学をしている、の2つが挙げられます。
世界では医学部を卒業した瞬間から医師として働けるという国が主流。日本の場合も医学生の能力の問題で臨床経験が不足しているのではなく、社会的事情でそうなっている面が大きいということです。
このうち、社会的合意と法的根拠に関しては、何しろ医学生がどういう教育を受けているのか分からない現状で、いきなり認めろと言っても無理があります。皆さんも今回の特集を読んで初めて知ったということが多いはず。医療界から、もう少し丁寧に情報発信する必要がありそうです。付随して起きている指導者側の不安に関しては、次項で詳しく触れます。
もう一つの臨床実習と国家試験との問題は、日本らしいというか何というか奥の深い話です。共用試験のCBTで「疾患→症状」の知識を確認し、実習で「症状→疾患」(臨床現場で必要です)の考え方を学んだ後に、もう一度「疾患→症状」の考え方の試験が行われるため、医学生からすると後戻りさせられているようなものです。
しかし、霞が関から見ると、だいぶ風景が異なります。医学部を所管するのは文部科学省です。医師国家試験と臨床研修を所管するのは厚生労働省です。文部科学省の指導で行ってきた教育が不十分に違いないから、厚生労働省が医師国家試験で知識をキッチリ見極めて、さらに臨床経験の足りない分、国費を使って(コラム参照)研修させてやろうということなのです。まさに役所の縦割りの弊害に、医師養成はスッポリはまってしまっていると言えます。
こんな風に変わります 研修期間2年分の給与などは厚生労働省が国立大学病院を除く研修病院に補助金として支給しており、全国合計すると約160億円になります。この部分は来年以降も変更ありません。コンピューターを使って志望者と医療機関の集団お見合い「マッチング」を行うところも変わりません。 変わったのは主に3点。まず必修診療科が7科から内科、救急、地域医療の3科・分野と外科、小児科、産婦人科、麻酔科、精神科のうち2科選択に減ります。組み合わせ方によっては2年目の2カ月目から将来進む診療科の研修に入れます。 また研修医を受け入れる医療機関の基準要件も厳しくなります。 最も物議を醸しているのが、各都道府県ごとに研修医の定員上限を設け、それを超えた場合にはその都道府県の医療機関すべて一律に定員をカットする仕組みの導入です。医師不足の地域に、「経験不足」のはずの研修医を無理やり送り込むものと医学生たちが反発しています。