心の病 がんばらないでください
心の不調は、脳の不調
さて、ここから本題です。心の病はどのようにして生じるのでしょうか。
まず、病気や怪我で脳を物理的に損傷した場合に、心の病を発症することがあります。これは、脳が物理的に損傷を受け、精神機能の制御能力に支障が出たものです。もっと言えば、脳を構成し、情報の伝達と処理を担っている「神経細胞」(いわゆる「ニューロン」、聞いたことがあるでしょうか?)や、それらのつながりが破壊されたためです。
問題は、そうした脳への直接的なダメージを思い当たらない場合。にもかかわらず精神機能の不調が長期にわたって続き、仕事や学業、家庭生活に支障が出ることがあります。昨今、患者数が増えている「心の病」には、このパターンが多いようです。
これは、神経細胞に何らかの異常が発生した場合のほか、神経伝達物質の量・作用が低下したり、過剰になったりすることが原因と考えられます。
神経伝達物質とは、神経細胞間でさまざまな情報(体の内外からの刺激が電気信号に置き換えられたもの)をやりとりするために必要な物質です。具体的にご説明すると、心の病に大きく関係する代表例に、以下の3つがあります。
●ドーパミン...集中力、やる気、ストレスの解消や、楽しさ心地よさ等の感情を生み出す
●ノルアドレナリン...神経を興奮させ、覚醒、集中、記憶、積極性を高め、痛みをなくす
●セロトニン...ドーパミン、ノルアドレナリンなどの情報を制御し、精神を安定させる
例えば、名前をよく耳にする「うつ病」は、セロトニンの不足が関与しています。「統合失調症」では、ドーパミンの作用過剰が認められます。いずれの物質も、少なすぎても多すぎてもいけません。分泌の量とバランスが大事で、それが崩れると心のバランスも失われるというわけです。
心の病は、からだにも
脳、すなわち神経細胞や神経伝達物質の分泌に異変が起きると、意識、感情、意欲や行動、思考、記憶、知覚、性格、自我等にさまざまな障害が現れてきます。これが「心の病」。具体的には、下表のような症状です。
さらに、心の病を発症すると、体の各部へも正しい指令が届かなくなります。その結果、体の各部組織や臓器も変調をきたすようになります。最初の頃の自覚症状として多いのは、疲れやすくなり、風邪をひきやすくなったりするほか、頭痛や動悸、肩こり、めまいなど。また、食欲がなくなったり、便秘や下痢、胸焼けなど消化器官に症状が出ることもあります。通常の体の病気であれば、ある程度の短い期間で治癒するはずですが、原因もわからないまま症状が長期にわたって続き、日常生活にも支障が出るようなときは、心の病気を疑ってみてもよいでしょう。