がん低侵襲治療③ 子宮がん
子宮がんは従来、大きめに切除する治療が標準とされてきましたが、切除範囲によっては妊娠・分娩不能や膀胱障害、リンパ浮腫などの原因となることから、低侵襲化への取り組みも始まっています。婦人科がんの治療数が全国で最も多いがん研有明病院婦人科の竹島信宏部長にお話をうかがいました。
子宮がんは、子宮本体である袋の部分にできる「子宮体がん」と、子宮の入り口部分にできる「子宮頸がん」に分けられます。この二つは、ちょっと位置が違うだけに見えて、実は治療方針の立て方がかなり違います。
子宮体がんは、数としては多くないものの増加傾向にあります。ごく早期での発見が難しく、一部の症例を除き、開腹して子宮全部に加え両側の卵巣・卵管と骨盤内リンパ節・傍大動脈リンパ節も切除する(「郭清」と言います)のが標準的な術式です。竹島部長によれば、「現在まだ保険適用外ながら、腹腔鏡下での手術やロボット手術も臨床研究として開発中」とのことで、傷口を小さくする方向での低侵襲化が図られています。
妊娠・出産の可能性を残す
子宮頸がんも、従来は、子宮全摘に加えて、膣の一部、骨盤リンパ節、卵巣・卵管まで切除する「広汎性子宮全摘術」が基本でした。「子宮と卵巣やその周辺器官には、かなりの割合で転移が見られるからです。隣り合って癒着していることも多く、細胞の行き来もあると考えられるんです」(竹島部長)。
しかし近年は、子宮がん検診の普及もあって、0期と呼ばれるごく早期の段階で発見されるものが、全体の約7割を占めるようになっています。これに「広汎性子宮全摘術」は取り過ぎです。
20歳代から増え出して40歳代にピークを迎える疾病なので、妊娠・出産を考える年代の患者も多く、切除範囲を最小限に抑えて子宮体部をすべて温存、妊娠・出産の可能性を残すのが一般的になってきました。
具体的手法としてまず挙げられるのは、「円錐切除術」です。電気メスやレーザーメスなどを用いて、子宮の入口部分を円錐形に切り取り、子宮を残します。がんの一歩手前の細胞が発見されたり0期で見つかった場合に加え、Ⅰa1期にも行われるようになっています。「この手術であれば、その後、通常と変わらない妊娠・分娩が十分可能です」と竹島部長。
さらに進行したⅠa2期以降でも、「主に、がんの直径が2cm以下であれば、広汎性子宮頸部摘出術を行うことがあります」。子宮体だけ残して、あとは広汎性子宮全摘術と同じく広い範囲を切除するものです。残った子宮体と膣をつなぐことで、理論上は妊娠・出産が可能です。
ただし、竹島部長によれば、がん研ではほとんど実施していないそうです。「妊娠の確率が低下しますし、流産や早産も増えます。妊娠・出産のためこの手術を希望する方には、術後のフォローを考え、不妊治療を行っていたりNICU(新生児集中管理室)を持っているような病院を紹介しています」