がん低侵襲治療① 消化器がん
がんが見つかった時、最初に検討される治療法は、丸ごと取り除いてしまう切除手術です。根治を期待できる代わりに、体を大きく切って開くので、患者の負担も大きなものでした。その負担を少しでも軽くしようとする「低侵襲」化の取り組みについて、隔月でご紹介していきます。今回は消化器がんについて、がん研有明病院の比企直樹・消化器外科医長にお話をうかがいました。
低侵襲化には4つのアプローチが考えられます」と、比企医師は説明します。
①傷をつくらない
②傷を小さくする
③取る範囲を小さくする
④機能を温存する
これら低侵襲化を考える前提として比企医師が示すのは、「命のピラミッド」=図=の概念です。治療目的の優先順位を表したもので、頂点部分には「命」、その次に「機能」、さらに下に「美容」(見た目)が位置します。
低侵襲化は、このピラミッドのより下位のもの、つまり「美容」まで救おうとすることになります。ただし、上位の「命」を守れることが確信できる状態でなければ挑んではいけませんし、手術を始めた後でも何らかの緊急事態もしくは想定外の事態が発生した場合は、直ちに通常の手術に切り替えなければなりません。
ちなみに、がん研では、事前診断に必ず複数の人間が関与して、確信が持てない場合は、各診療科が集まって意見を述べ合う『キャンサーボード』で全員が納得するまで議論しているとのことです。
ゼロではない合併症
誤解されがちですが、低侵襲と言っても、術後に合併症が起きる可能性はゼロでありません。
例えば、がん研有明病院の腹腔鏡を使った胃がん手術でも、85%の患者は経過良好で2週間以内に退院が可能ですが、約15%は合併症(軽微なものを含む)を発症するそうです。そのうち3分の2(全体の10%)は入院が約1カ月の軽~中等度の合併症、残る3分の1(5%)は2カ月近く延びる重症です。さらに1000人に1人(0.1%)は命に関わる合併症に見舞われると言います。
どういう手法にしても、がん手術は侮れないもの。そうわきまえた上で、切除範囲はできるだけ小さく、できれば傷は小さくきれいに、という順序で考える必要があるわけです。