認知症を知る6 介護に入る前に
認知症の人の行動は、傍から見ていると理解し難いことが多々あり、意思疎通もうまくいかないがゆえ、介護する人はいら立ちます。
しかし、本人に見えている「世界」や、保持している記憶に照らすと、きちんと行動に説明のつく場合も少なくありません。「認知症だから」で済ませるのでなく、何か理由があるのでないかと考えるクセをつけることが大切です。
認知症の人の「世界」は、こんな風になっています。
アンビバレント
介護する人を困惑させるのは、最も身近な頼るべき人に「物を盗られた」という妄想が起こることです。
これは、頼りたいのだけれど、頼るのはイヤという両価的(アンビバレント)感情の現れと理解することができます。つまり、典型的な事例の姑と嫁のように、妄想の出る前から2人の間に両価感情的なわだかまりが存在し、それが認知症を契機に現れたに過ぎないのです。
同様に、人物誤認は、叱られた後に起きやすいことが知られており、叱る相手を知らない誰かにしたいという心理状態が働いているのでないかと推察されています。
昔を「現在」と認識
過去の号でも既に説明しましたが、認知症では、新しい記憶から段々に失われていきます。ある時点からの記憶が一切なくなると、本人にとっては、最も新しい記憶の時点が「現在」となります。
働いていた時が「現在」となれば出勤しようとするでしょうし、子どもの成人する前が「現在」になれば、介護してくれる子どもを他人と思ってしまうかもしれません。結婚前が「現在」となれば、配偶者すら他人です。
攻撃と感じる
介護する側がよかれと思ってやっていることでも、本人がそう受け取っていないということは多々あります。
攻撃されているように受け取れば、抵抗するのが自然なことですし、その気持ちを言葉で上手に伝えられなければ暴力に及ぶかもしれません。
認知症の人の「世界」がどうなっているか考えてみると、たとえ妄想や攻撃性が出てきたとしても、その根本に不安が隠れていると思い当たるかもしれません。現象そのものへの対応を焦る前に、その不安に寄り添うことが大切です。
実際に妄想を訴えられた場合は、それを否定したり訂正したりすると、信じてもらえない不安感や怒りで妄想が悪化することも多いため、否定も肯定もしない態度で接し、本人が安心できるように心がけます。
『いいんだよ。私たちは常に味方だからね』
こう言い続けてあげられれば素晴らしいことです。