認知症を知る2 アルツハイマー型
アメリカ精神医学会の定義(DSM-Ⅳ分類)によれば、アルツハイマー型認知症は、新しいことを覚えたり以前の記憶を思い出したりすることができなくなる記憶障害に加えて、四つの認知障害(言語の障害、失行、失認、実行機能障害)のうち少なくとも一つが、持続的に存在し、しかもその原因が他の疾患ではないものを指します。
前回も説明したように、失行は運動機能は正常なのに意図したことを行えないこと、失認は感覚機能は正常なのに対象を正確に認識できないこと、実行機能障害は作業を順序立てて効率よく行えなくなることです。また、これも前回説明したように、症状の本体である認知機能障害の他に、暴言・暴力や徘徊、妄想、抑うつなどの行動・心理症状(BPSD)が出る人もいます。
記憶障害について、若干補足します。認知症の人の記憶は、現在から過去に遡って失われていきます。年齢を尋ねた際の答えが実年齢より大幅に若い場合、その年齢以降に出会った人や出来事の記憶は失われている可能性があります。総理大臣の名前を尋ねても、どこから後の記憶が失われているか推測できます。不思議に思える言動が、ある時点からの記憶がないと知ると納得できるかもしれません。
これらの認知機能障害は緩やかに進行し、また行動・心理症状が現れた場合には社会的軋轢をひき起こします。やがて認知機能障害が重くなると共に、運動もままならなくなります。失禁するようになり、また様々な病気にかかりやすくなります。
現在のところ、アルツハイマー型認知症と診断された状態から、認知機能を復活させることはできません。症状の進行を遅くするべく医療介入が行われます。行動・心理症状を軽くすることも、医療や福祉の重要な役割です。また、より早期から医療介入(コラム参照)することで、より効果を期待できるのでないかと考えられるようになってきています。
治療に関しては次々項で説明します。
軽度認知障害 認知症の診断基準は満たさないものの、通常の老化とは言えないほど認知機能レベルの低下した状態の人々が存在します。 この状態を、軽度認知障害(MCI)と呼びます。軽度認知障害と診断された人を追跡した結果、1年あたり平均12%、4年間でおよそ半分がアルツハイマー型認知症に進行するとの結果が出ており、早期に介入した方がよいと考えられるようになっています。