認知症を知る9 夜眠れないのを何とかしたい
薬の影響と頻尿
認知症の人が夜ぐっすり眠れない原因の二つ目は薬剤の影響です。
高齢者に不眠を起こす可能性があるものとして、降圧薬、抗ヒスタミン薬、ステロイド、カフェイン、抗パーキンソン病薬、気管支拡張薬、インターフェロン、SSRI型抗うつ薬などが知られており、場合によっては薬を減量・中止するか同じような効果の別の薬に置き換えることが行われています。
そして、意外かもしれませんが、中でも睡眠薬は要注意です。
例えば、睡眠障害への対症薬として、作用時間の短いベンゾジアゼピン系睡眠薬が頻用されています。しかし、大量・長期に使用した後で急に使用を中断すると、睡眠薬使用前よりも強い不眠と不安に襲われる「反跳性不眠」という副作用が知られています。後述するような転倒事故の危険もあります。
また作用時間の長いベンゾジアゼピン系睡眠薬の場合、翌日の昼間に眠気やふらつき、脱力感、めまい、頭痛などに襲われる「持ち越し効果」という副作用があります。前項で説明したように、昼間に居眠りさせてしまったら、何のために夜苦労しているのか分からなくなります。
『認知症疾患治療ガイドライン2010』では、睡眠障害への対応として、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を「非推奨」、リスペリドンは「考慮してもよい」、塩酸ドネペジル(アリセプト)や抑肝散も「考慮してもよい」となっており、「推奨」されている薬はありませんでした(コラム参照)。
薬を使う場合は、主治医とよく相談のうえ、その特徴を把握し、くれぐれも用法用量を守るようにしてください。
過活動膀胱
認知症の人が夜ぐっすり眠れない原因の三つ目は、夜間頻尿です。その原因の中でも頻度が高いものに「過活動膀胱」があります。
膀胱が勝手に排尿を始めようとする病気で、排尿を意識的にコントロールしにくくなる病気と表現することもできます。急に漏れそうな尿意を覚え、我慢できず漏らしてしまうこともあります。
これと認知症が合わさると、失禁して叱られた→失禁してはいけないとの強迫観念→早め早めのトイレ通い→眠れない、という現象になります。
そして睡眠薬を飲んでいる場合は、意識が清明でないため、転倒など思わぬ事故につながる危険があります。薬の使用を慎重にしなければいけない理由がここにもあります。
過活動膀胱の原因は様々ですが、脳や脊髄のトラブルから膀胱の神経が思ったように働かなくなるのは、その一つです。前立腺肥大で、狭くなった尿道に尿を押し出そうとしているうちに膀胱に負担がかかってという場合もあります。症状を緩和できる可能性がありますので、ひょっとしてそうかなと思ったら、まずは泌尿器科を受診させるようしてください。
膀胱の原因が改善されたにもかかわらず、頻繁で強迫的なトイレ使用が残った場合は、精神的なものの影響が大きいことになるので、情動と行動を制御する神経伝達物質である脳内セロトニンを増加させるようなSSRI型の抗うつ薬を用いることもあります。
ガイドライン策定後の薬2010年7月に販売開始されたラメルテオン(ロゼレム)は、効き目が緩く抗不安作用もありませんけれど、脳の松果体から分泌される睡眠ホルモンのメラトニンと同様に睡眠・覚醒リズムを改善することで、他の薬剤のような深刻な副作用は生じないのでないかと期待されています。