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がん低侵襲治療⑥ 前立腺がん


究極の低侵襲 経過観察

 転移がない前立腺がんの治療としては、手術(前立腺全摘術)が最も多く行われています。前立腺を精嚢と共に切除し、膀胱と尿道をつなぎます。米瀬部長によると「手術であっても、がんの広がり方によっては勃起神経を温存(場合により片側)することもできますし、おとなしいがんなら機能温存も可能です」とのこと。
 さらに低侵襲なのは、放射線治療です。「当院では、強度変調照射線治療(IMRT)※1や小線源治療※2が行われています」
※1...コンピュータを用いて照射範囲を変化させ、腫瘍の形に適した放射線治療を行うもの(2011年11月号参考)。
※2...放射線を放出するヨウ素125線源を前立腺に挿入し、内部から放射線を当てる治療法。

 IMRTは、腫瘍に放射線を集中して周囲の正常組織への照射を減らすことができ、7~8週間の通院治療で済みます。ただ米瀬部長は、「現場では低侵襲を追求するというより、副作用を増加させずにより強い放射線を腫瘍に照射することを狙うもの、という認識の方が強いです」と話します。
 小線源治療は、線源から数mmしか細胞に傷害を与える放射線が届かないため、直腸などの周辺臓器への線量は最小限に抑えられます。
 「IMRTにしても小線源治療にしても、10年くらいの期間で見た場合の治療成績は手術と変わらないことが分かっています。それより先のことは何とも言えません」
 そのため、これから何十年と先のある若い人で、もし進行の速いリスクの高いがんだと診断されたら、手術を勧めていると言います。
 逆に進行の遅いリスクの低い早期がんと診断された場合、「小線源治療を行う例は減って、代わって増えているのが『経過観察』(PSA監視療法)です」。

見つけても治さない

 「経過観察」とは文字通り何も治療せず、ただし定期的にPSA検査を行って、がんの動向を見守っていく方法です。がんが微少で病理学的に見て悪性度が低い場合や、症状のない超高齢者の場合などに適応となります。
 先ほども説明したように、多くの前立腺がんは進行が遅く、悪性度が低くて転移がなければ、すぐ命に関わるものでもありません。自覚症状も何もないのに、治療して副作用に悩むことになるのはいかがなものか、というわけです。
 多くは3~6カ月に1度、PSA検査をしていきます。その結果、PSA数値の上がり方が大きくなってきたなど、病状の進行が心配される場合には治療を開始します。
 「早期の悪性度が低いがんでは、放射線治療と経過観察が半々くらいです。両方説明した上で、患者さん自身にどちらかを選んでもらっています」(米瀬部長)
 「がんを見つけ過ぎる」という反省も経過観察も、進行の遅い前立腺がんでは結果的にQOL(生活の質)が高くなる、という判断から出ています。「がんは早く見つけて治すもの」「見つかったら絶対に治さないといけない」という固定観念からの脱却なんですね。

前立腺がんのリスク分類

 生検検査では、まず顕微鏡で前立腺がんを観察し、見た目からがんの悪性度と組織の異常さを図のように五つに分類(グリソン分類)します。
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【パターン1】がん細胞を認めるが、前立腺本来の姿に近い組織構造をしている
【パターン2】1とほとんど同じだが、腺構造(腺房*1)が不均一である
【パターン3】腺房が変化し、腺構造のがん細胞の層が厚くなっている
【パターン4】腺房の変形が進み、ふるい状構造*2が見える
【パターン5】腺房構造が消失し、全面がん細胞だけである
 この1~5の数字で悪性度を点数化するのですが、多くの場合、採取した組織には色々なパターンが混在しています。そこで最も多くの面積を占めるパターンと、次に多いパターン、二つの数字を足したものを「グリソンスコア」とします。点数が高いほど悪性度が高く進行の早いがんと言えます。
 通常、生検レベルではパターン3~5の組織型が判断されますから、最もおとなしいタイプは3+3=6以下、最も悪性度が高いのが5+5=10となります。
 このグリソンスコアとPSA、病期(表1)を組み合わせてリスク分類(表2)が決まり、治療方針が立てられます。


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