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認知症を知る13 介護者の気づき生むひもときシート

93-1-1.jpg この年間特集では、2回前にパーソン・センタード・ケア(PCC)を、前回に問題解決型コーピングをご紹介しました。今回は、その二つを結び付ける道具のご紹介です。
監修/小阪憲司 メディカルケアコートクリニック院長

 2回を簡単に復習すると、PCCは、認知症の人を尊厳ある個人として捉え、本人が幸せに暮らせるよう支えるケアのことでした。また、問題解決型コーピングは、介護者がストレスを感じた時、問題の見方を変えて解決法を導き出す方法論のことで、それによって認知症の進行が遅くなるかもしれないという報告が最近ありました。

 こうして並列で眺めてみると、PCCを実践することが、介護者の問題に対する見方を変え、結果的にストレス緩和につながれば、それは理想的な「問題解決型コーピング」と言えるのでないかという気もします。

 そんなことに役立つ道具はないかと探してみたら、何と日本にありました。

国の事業で作成

 それが「ひもときシート」です。

 認知症介護研究・研修東京センターが2008年度から3年間、厚生労働省からの委託で行った「認知症ケア高度化推進事業」の中で作成されたもので、著作権は同センターに帰属します。
 事業そのものは終了していますが、Webサイト「ひもときネット」は現在も稼働しており、その成果物も「法令違反や公序良俗に反する」のでない限り自由に使ってよいということになっています。

 サイトの文言をなぞると、シートの特徴は「パーソン・センタード・ケアを基本に作られており、課題や問題と思っていることを、援助者中心の思考から本人中心の思考に転換」していくことです。

 また、作成の趣旨は「ケアに携わる援助者は、認知症の人の言葉や行動にばかり目を奪われてしまい、背景にある本人からのメッセージやシグナルに気づけないでいることが多いのではないでしょうか。そのシグナルに気づいていくためには、援助者がそれを読み解く力を身に着け、その人の生活背景や事象の前後について状況分析を行いながら、『本人にとっての問題』をひも解いていくことが大切です。私たちは、まず、援助者が『困難』と感じていることについて、一定のプロセスを踏みながら思考整理の手伝いをすることが大切だと考えました。そこで開発したのが、困難や課題と考えていることを明確にし、事実に基づいた情報の整理をしながら本人の求めるケアを導き出す(ひもとく)ための『ひもときシート』です」だそうです。

 同センターが、研修に参加した介護のプロなどを対象にアンケート調査した結果(回収率40パーセント)では、シートを使ってみて、約8割の人が介護対象者を以前より理解できるようになったと答え、7割の人は自分のすべきことが分かったと答え、4割弱の人は介護対象者の状態が改善したと答えるなど、その効果は概ね肯定的に評価されています。

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