糖尿病との賢いつきあい方
「糖尿病」は昔は原因不明で、尿に糖が出てきて、やせ細り死ぬという症状からこの名前が付きました。現在は原因が分かっていて、血液中のブドウ糖(血糖)が多すぎる状態の続くことを糖尿病と呼びます。
血糖が多すぎると、血管壁のたんぱくと結合してしまうため壁がもろくなったり、血が粘っこくなったりして、いろいろと問題を引き起こします。詳しくは後ほど触れます。
でも実は、人体にとって血糖が少なすぎる方(低血糖)がもっと危険です。血糖は、細胞一つひとつが活動するためのエネルギー源として非常に大切なもの。低血糖だと、特に脳や神経などがうまく働かなくなって死にかねません。
このため、簡単に低血糖にならないよう、人体には血液中の糖濃度(血糖値)を維持する仕組みがいくつも備わっています。食事で補給された糖を、肝臓や筋肉、脂肪組織などの細胞に取り込んでエネルギーとして利用するだけでなく蓄えておくのも、その一つ。蓄えた糖は、時間が経って血糖値が下がってきたところで徐々に放出します。要するに細胞が「食いだめ」するわけです。
なんて余計なことをしてくれるんだ、と思う人もいるかもしれません。でも、よく考えてみてください。人類何百万年の歴史は飢えとの戦いの連続でした。いつ食事にありつけるか分からない状況で生きていくには、「食いだめ」は大変合理的なのです。
この細胞への糖の取り込み指令を出しているのが「インスリン」というホルモン。血糖値が高くなってしまうのは、入ってくる糖に対して、インスリンが不足するからです。
いったんインスリンが不足すると、今度は細胞自身の活動に必要な糖の取り込みにも苦労するようになります。このため既に血糖値は健康人より高いのに、さらに肝臓が糖を放出したり作ったりし始めます。こうして、どんどん血糖値が高くなり、ついには尿に糖が出てしまうわけです。
細胞、肝臓と血糖、インスリンの関係は、イスがないとカウンターに手の届かない回転寿司屋を思い描くと分かりやすいでしょうか。客(細胞)から「食べられない!」と苦情を受けた板さん(肝臓)がせっせと寿司を握って、コンベアーの上は寿司だらけなのですが、イスが低い(インスリン不足)ので、客はなかなか食べられません。
インスリンはすい臓の中にあるランゲルハンス島のβ細胞というところから分泌されます。このβ細胞が破壊され失われればインスリンは出なくなります。このタイプを1型糖尿病と言います。
β細胞が存在しているのだけれど弱っていてインスリンが足りなかったり、インスリンはある程度出ていても細胞でよく働けないという人もいます。このタイプが2型糖尿病です。日本人の患者の場合、9割以上が2型です。このほか、薬や他の病気が原因で糖尿病になることもあります。