情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。
ストップ!! 医療崩壊1
なぜ大学医局が派遣先を絞り始めているのでしょうか。
以前まで大学医局は、派遣先ポストの多いことは良いことだという発想で、請われるままに医師派遣をしていました。その結果、1診療科に1人か2人の医師しかいない施設が数多くできてしまいました。
しかし医療が高度化・複雑化して、少人数では行えないような診療も増えてきました。そういった先端診療は患者側の利益になるだけでなく、医師の技能や勤労意欲も上げますので、医局には大勢勤務するような施設を持ちたいという欲求が出てきました。
また少人数による勤務は後述するように大変過酷です。しかも、そんなに恵まれた待遇ではありません(コラム参照)。過酷な勤務で安い給料だからこそ、医局による半強制的な派遣が必要だったわけです。
どのように過酷か。
病棟を持っている場合、外来をこなしつつ入院患者の主治医もすることになります。患者との付き合いが濃密になってやり甲斐は増しますが、1日8時間労働など夢物語です。外来と入院患者の主治医を分けるとか、シフト制勤務にするとかできれば良いのですが、それには複数の医師が必要です。
「病棟を持つ」というのが何を意味するのか想像つきにくいと思います。要するに入院患者に何かあれば、夜中であろうと休日であろうと叩き起こされ、呼び出されるということです。ここでも医師が大勢いれば当直や夜間休日担当者を交代で回せますが、少なければ連日のように当直や夜間休日対応を迫られることになります。
夜間急変・救急対応の多い診療科で少人数勤務を行った場合、休みはおろか満足な睡眠時間も取れないということがお分かりいただけますね。
真っ先に該当してしまった診療科が、少子化で一病院あたりの医師数が減ってきている産科、小児科です。この2科で縮小・閉鎖が相次いでいるのは決して偶然ではありません。
ただし、ここ1、2年で急に産科、小児科の勤務が過酷になったわけではなく、過酷であっても意気に感じて頑張る医師たちによって支えられていました。しかしギリギリの綱渡りを続けてきただけに、ちょっとしたことで破綻してしまいます。
最たるものが、訴訟のリスクです。
ろくに眠れない無理な勤務を重ねれば、ミスの確率が高くなります。医師からすれば「こんなに少人数で頑張っているのだから」であっても、悪い結果の出た患者側からすれば、そんなことは理由になりません。特に産科、小児科は元から訴訟が多いのです。
こうして高度治療を行うためという積極的な意味でも、訴訟リスクに備えるという消極的意味でも、急速に「集約化」が行われてきたのです。
医師の給料、意外と高くありません。 医師には大きく分けて「勤務医」と「開業医」の2種類があります。言わば「サラリーマン医師」と「自営医師」です。開業医としてきちんとやっていくには、技量を磨くとともに、重症患者を紹介できるような基幹病院を持っていなければなりません。このため卒業後ある程度は勤務医として働き、大学医局とも良好な関係を保つのが一般的です。 「勤務医」には常勤と非常勤(日雇い)とがあります。大都市圏の場合40歳近くまで非常勤のポストしかないことがよくあります。非常勤と言っても、実際の拘束時間は常勤医と同じ。月に何度か別の医療機関へアルバイトに行って(「外勤」と称します)、何とか生計を立てることになります。 常勤になったとしても、公立病院なら給与体系は公務員に準じます。民間でも大都市圏の場合、同年代の大卒サラリーマンと比べて、そんなに給料が高いわけではありません。マスコミ、金融などに比べると間違いなく安いです。