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備えよう新型インフルエンザ
インフルエンザというのが、インフルエンザウイルスの感染によって、高熱が出たり全身の関節痛・筋肉痛になったりする風邪のような流行性感冒であることはご存じだと思います。
もう少し詳しく掘り下げてみましょう。
ウイルスとは、(宿主と言います)生物の細胞に入り込み、その中にある酵素などを勝手に使って増殖する生命体です。その大きさは、細胞を私たちの体ぐらいまで拡大したとしても、肉眼で見えるかどうか。宿主を特定の動物に限るものと、種をまたいで感染できるものとがあります。インフルエンザウイルスは、鳥類をはじめ多くの哺乳動物にも共通して感染するウイルスです。
宿主と穏やかに共存しているウイルスも多いのですが、急速に増えて宿主細胞を破壊し、同時に近接した細胞に再び入り込むというサイクルを繰り返すものもあります。後者の場合は、細胞が死んで組織が壊れたり、今から説明するように免疫が作動したりするので、症状が出る、すなわち病原性を持つことになります。人のインフルエンザウイルスも病原性を持ちます。
もちろん、宿主側も黙って増殖されるばかりではありません。ウイルスの侵入を検知すると、免疫による対抗活動が始まります。具体的には、ウイルスに入りこまれた細胞を殺したり、ウイルスの活動を無力化したり、くしゃみや咳・鼻水で体外へ追い出したりということです。そして、それが多くの不快な症状の原因となります。
免疫が勝って増殖を抑え込めば症状は軽快します。しかし万一、免疫がウイルスを制圧できないうちに宿主の体力が尽きると、死に至ることとなります。
免疫には、一度感染されたことのあるウイルスを覚えていて、それを退治する武器(抗体と言います)の「設計図」を一定期間保存しておくという性質があります。これを獲得免疫と言います。この性質により、次に同じウイルスが侵入してきた際には、間髪を入れずに武器の量産と退治が始まります。症状を感じる間もありません。
国際手配犯の写真が空港の「警備員」詰め所に貼ってあって、手配犯を捕まえる武器もあらかじめ準備してあるようなものです。
「はしか」や「おたふく風邪」など、普通なら一生に一度しかかからないのは獲得免疫のお陰です。また、ワクチン予防接種は、この性質を利用して、あらかじめウイルスに対する防御力をつけておこうとするものです。
しかし、インフルエンザウイルスは、表面の目印を少しだけ変化させ(「変装」のようなものです)、「警備員」の目をごまかして侵入を繰り返す特徴を持っています。退治に乗り出すのが遅れ、毎度症状が出る程度までは暴れ回られることになります。でも所詮は「変装」で本質に大きな違いはないので、武器も少し改良すれば使えるようになり、しばらく後には退治できるようになります。
同じウイルスが少し変化を繰り返すだけなら、毎年同じことが繰り返されます。でも実は歴史的に見ると、何十年かに一度、まったく新しいウイルスが発生します。この場合は「変装」ではなく「初犯」なので、警備側に備えがなく虚をつかれた形になって反撃がだいぶ遅れます。運が悪ければ命にかかわります。
さらに困ったことに、備えがないのは誰にとっても同じ。1人の患者が周囲の人を次々と感染させ、そのまた患者が周囲の人をといった具合で、とめどなく流行することになります。これが、そろそろ起きてもおかしくない時期なのです。