妊婦のインフル感染、重症化しやすいと知って―国が妊婦向けパンフ作成
妊婦が新型インフルエンザに感染した場合、合併症を引き起こすなど症状が重くなりやすい傾向がある事を知ってもらおうと、国が昨年末に妊婦向けのパンフレットを作成した。監修に関わった産婦人科の太田寛氏(北里大学医学部助教)は、「妊婦さんたちには、『自分自身が元気でないと、赤ちゃんも元気でいられない』ことを認識してほしい。妊婦がインフルエンザに感染したら、まれにではあるが命を失うこともあるということを知っておいてほしい」と話している。(熊田梨恵)
作成されたパンフレットはこちら。
このパンフレットは、海外ワクチンの輸入に関する議論が盛んだった昨年9月に作られ始めた。長野県内の妊婦グループの協力を得て、当時妊娠していた女性にヒアリングし、新型インフルエンザに関する疑問を募集。日本患者会情報センターが中心となり、太田氏や国立感染症研究所感染症情報センターの豊川貴生氏が加わって作成された。太田氏は「パンフレットの内容は妊婦さんからの質問を基にして作りました。あくまでも患者を主体にして作ろうという趣旨です」と話す。パンフレットは昨年末に完成、現在は厚労省のホームページ上に公開されている。
パンフレットはA4サイズ8枚から成る。妊婦は新型インフルエンザに感染すると合併症を引き起こすなど症状が重くなりやすい傾向があることや、症状の特徴、胎児への影響などについて記載されている。また、新型インフルエンザワクチンは重症化を予防する効果があるとして、接種は一回でよいことや接種費用、副反応、胎児への影響、効果の持続性についても書かれている。このほか、医療機関へのかかり方として、相談のみでよい場合や、受診する必要がある場合の診療科名などを紹介している。赤ちゃんを母乳で育てている母親が感染した場合の注意点や、抗インフルエンザ薬に関する記載もある。
太田氏は、「人ごみに行かない、換気を良く行うなどの対策を行い、ウイルスに近づかないことが最も重要です」と話しており、ワクチンの接種を行ったからといって人ごみに行く事は本末転倒になると主張する。
医療者が使う「重症化」という用語についても、「僕たちは『生命に危険がある状態』として使う言葉だけど、質問の内容からは「ちょっと寝こんでいる」というようなイメージを持っているようで、認識のズレを感じました。正しく認識していただくためには、どんな風に書くのが良いかいろいろ話し合いました」と、医療者側と患者側の意識の差についても話した。
また、妊婦から募集した質問については、ワクチンの胎児への影響や接種の必要性の有無などに関するものが目立ったと指摘する。太田氏は、「ワクチンはお母さんの命を守ることが目的です。お母さんが元気じゃないと赤ちゃんも元気でいられません。ワクチン接種にも良い面と悪い面があり『絶対』という回答はないので、バランスを持って考えてもらいたいです」と、重症化しやすい妊婦自身のリスクを下げることが重要という。
ただ、このパンフレットは厚労省のホームページ上での掲載のみで、国による印刷や配布はされていない。太田氏は「多くの人に知ってもらって、有効に使ってもらいたいです」と話している。
新型インフルエンザの患者向けパンフレットはこのほか、がんや糖尿病、ぜんそくに関するものなどがある。