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特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

安心と安全はあるか これがビジョンだ

希望を持ってもいいですか?

 前項をご覧になって、いかがでしたか。
 本当にこうなるのかな、と眉に唾をつけた方もいることでしょう。その態度は実に正しく、そして大間違いです。
 まず大項目の3番目『医療従事者と患者・家族の協働の推進』に関しては、私たち患者・一般市民側が実現させる意思を持つかどうかです。心配するぐらいなら行動しましょう。その一歩で世の中がガラリと変わる可能性だってあります。
 ただ、具体的な施策の多い1番目と2番目の大項目は、もう少し難解です。疲弊しきった医療者たちに工夫しろ努力しろだけでは、まさに絵に描いた餅。実現するかどうか、結局は必要なところに予算がつくかにかかっており、そしてこれが予断を許しません。
 予算の問題は額と箇所に大別できます。
 まず政府全体には「骨太の方針」として、社会保障費の伸びを毎年2200億円ずつ削減するという縛りがあります。骨太の方針の解釈・評価は人それぞれです。しかし方針が出てきた小泉政権当時は国民も概ね支持していましたよね(コラム参照)。今さえ何とかなればよい、2200億円など知ったことかというのでは、将来世代に対して無責任です。
 幸い、今年の骨太の方針は、2200億円削減は行った上で別途、「医師不足への対応、少子化対策、長寿医療制度の運用改善などの重要課題に対しては必要な取組を行い、国民の安心を確保する」となりました。道路特定財源の一般財源化もあるので、今のところビジョン実現の予算は、ある程度確保されそうです。
 ただし、お金が足りないと主張しているのは、社会保障分野だけに限りません。予算編成の段階で分捕り合いが必ず起きます。マスコミでは政治力次第などと表現されますけれど、要はどの分野にお金を使うべきという国民の声が大きいかです。ビジョンを実現させたかったら、それだけの額を社会保障へ回すよう意思表示しないといけません。
 この際に費用負担するのも自分たちであることをお忘れなく。あれもこれもと要求したら、増税が必要になります。
 額を確保しても、まだ安心はできません。どこに予算をつけるか箇所づけする厚生労働省の問題があります。
 特集冒頭で説明したビジョン2原則は、どちらも厚生労働省の権益を減らすもの。官僚たちからすると嬉しくない話です。自分たちでコントロール可能なところに予算をつけようとするはずです。極端なことを言えば2200億円削られたところを、ビジョン名目で復活させることもあり得ます。その予算が、本当にビジョン実現につながるのか、監視と検証が必要です。
 ここまで性悪説で考えなくても、そもそも官僚は長期計画で予算が硬直化するのを嫌います。これだけ政治がコロコロ変わる、つまり国民の意思がコロコロ変わる時代に、将来「なぜこんなことにお金を使っているのだ」と官僚が叱られない保証はあるでしょうか。後期高齢者医療制度の大混乱を見ても、杞憂と笑うことはできないはずです。
 官僚の志をうまく引き出しビジョン実現に取り組ませるには、国民側にも、10年単位で揺るがない決意が必要です。最初の話に戻れば、「本当にこうなるか」ではなくて、「本当にこうするのか」と考える必要があるわけです。
 さあ、どうしますか?

歳出カットの理由  借入・返済など借金関連の費用を除いた単年度収支の「プライマリーバランス」が93年度以降ずっと赤字で、国債残高が雪だるま式に膨れあがっています。これを11年度に黒字化するため、様々な歳出抑制策が取られているのです。思い出しましたか?
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