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どうすりゃいいの お産危機

34-2-1.JPG全国的にお産できる医療機関が足りなくなっているのは、マスコミ報道などで、ご存じと思います。
でも何が起きているか、本当に理解していますか?
自分には関係のない話と思っていませんか?

監修/海野信也 北里大学教授
    久保隆彦 国立成育医療センター産科医長

何が起きているの?

 本誌をずっとご覧の方は、産科の危機的状況が昨日今日始まった話でないことをご存じのことと思います(06年6月号「お産が危ない!」特集参照)。何年も前から悲鳴があがっていたのに、世の中が取り合ってこなかった。厳然たる事実です。
 前回特集では、産科医が過去15年ほどで1割ほど減り、また女医の割合が増えたこと、主に開業医の高齢化が進んだことから、分娩取扱施設数も減り始めていることを説明しました。
 以降も状況は悪化の一途です。残った施設と産科医で必死に需要を満たしてきたけれど、ついに限界を超えて需要があふれ、お産難民が出現した。ようやく世の中が気づいた。これが現状です。
 遅まきながら政府も緊急対策に乗り出しました(次項表参照)。けれど、残念ながら大して実効性はないでしょう。根本的原因である私たち国民の行動や考え方をどう変えるか考慮されていないからです。
 まず基本的な前提から。お産は、計画帝王切開でない限り、24時間365日いつあるか分からず、何時間続くかも分かりません。このため医師が1人しかいない場合、安全に受け持てるのは年間120分娩までと言われています。
 ところが全国の年間出生数約110万に対して、産婦人科常勤医は約8000人(05年12月現在の日本産科婦人科学会調査)。全員が満遍なく分娩を受け持ったとしても、年間140分娩近くあります。
 ちなみに本誌発行エリアは、埼玉が1人あたり268分娩でダントツ全国ワースト1、茨城がワースト2位の176、千葉もワースト3位の173、群馬164、神奈川157、静岡156と軒並み大変なことになっています(出典同)。
 こんな大変な状況になるまでお産難民が出なかった背景には、お産は病気ではないという特有の事情と、その事情を生かし現場が精一杯の労働強化と工夫を重ねて需要を吸収してきたこととがあります。
 お産には、時として母子の命が失われるもの、医療介入によって寸前で助かるものがある一方、医療介入の必要がほとんどないものもあります。ただし、異常なしだったものが突如、医療介入の必要なものに変わることは多々あり、その急変がいつ誰に起きるか事前には分かりません。
 イザという時に病院へ搬送する前提なら開業医が低リスク分娩を数多く引き受けられますし、中・高リスク分娩の集まる病院も、綱渡りにはなりますが掛け持ちすることで分娩数を増やせます。
 ただし当然限界があります。病院が分娩数を増やし過ぎると、イザという時の搬送を受けられなくなります。結果、開業医が分娩を取り扱えなくなり、あふれた分がまた病院へ回ることになります。
 妊婦側から見ても、外来での説明時間が短いとか、待ち時間が長いとか、分娩中に医療者が常時そばにいない、といったありがたくない話になります。外来診療中に分娩や手術が飛び込んできて待たされることも増えます。医師に不満を抱きやすく、人間関係がギスギスする原因にもなるのです。ただでさえ疲れている医師にとってつらいことです。
 しかも社会の安全要求は高まる一方。06年には福島県で産科医が逮捕・起訴されるという事案まで起きました(次項表参照)。
 こうした状況に耐えきれず産科医を辞める人が現れ、残った人・施設の負担がさらに過酷になるという完全な悪循環なのです。

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