痔 独りで我慢は損ばかり
名前は誰もが知っている。でも正しく知っているとは限らない。それが痔です。
肛門まわりの症状を独りで我慢している方いませんか?
我慢は美徳ではありません。
むしろ有害なことさえあるのです。
監修/釣田義一郎 東京大学医科学研究所助教
肛門はこんな構造
地主ならぬ痔主は日本人の3分の1を超えるとの説があります。「説」と曖昧な書き方になるのは、場所が場所だけに誰にも相談せず我慢している隠れ痔主が数多くいて、実態がよく分からないからです。
そもそも痔は文明人の宿命とも言える疾病で恥ずかしがる必要などなく、しかも早めに手を打てば軽く済むものを放置して悪化させるのは勿体ない話です。
さて痔の発生する部位が肛門周辺だということは皆さんもよくご存じだと思います。でも、自分では見えない所だけに、痔の時に一体何が起きているかイメージできないのではないでしょうか。まずは敵を知るためにも、肛門周辺の仕組みを知っていただく必要があります。上下に切った断面図をご覧になりながら、お読みください。
肛門は、口から始まって延々と体内を貫いてきた消化管の出口です。出口から1.5cmほど奥まで皮膚があって(体表部)、その奥に粘膜で覆われた直腸下部(腸管部)がくっついています。直腸は、便を一時的に溜める場所です。
腸管部と体表部の境目は、ノコギリの歯のようにギザギザしているので「歯状線」と呼ばれます。
直腸下部は知覚神経が少ないために痛みなどを感じることが少なくて、また意識して制御することはできません。対して肛門は知覚神経が多数存在しているために敏感で、意識して制御することもできます。制御の時に使われる輪状の筋肉が「肛門括約筋」。普段は縮んで肛門を閉じ、排便の時は緩んで肛門を開きます。内括約筋は自律神経によって無意識に制御されていますが、外括約筋は意識的に締めたり緩めたりできます。
便が直腸に溜まってその壁が広げられると、自律神経の反射作用で便意が起こり内括約筋が緩みます。その場ですぐ排便すれば一件落着。肛門の役割もすぐ終わります。しかし、文明社会では道端ですぐ排便するというわけにいきません。我慢して外括約筋を絞め続けることになり、そのうち便意も去っていきます。
ここまで読めば、日常的に肛門周辺に負担がかかっていることはイメージできると思います。
それでなくても、人が二足歩行するようになって、肛門は常に下を向くこととなり、血がたまり便の荷重もかかりやすくなりました。犬や猫の肛門を思い出していただけば、普段は後ろを向いてますよね。猿だって移動の時は横向き。人間が人として文化的な生活を送ることになって、一番ワリを食ったのが肛門なのかもしれません。
だから早く専門医へ
進行した状態で発見される直腸癌では、ほぼ全員、排便時の出血や肛門の異和感などが1年以上前からあるのに、痔と思って病気の発見が遅れたものです。
また既に痔主と分かっていて排便時に出血したのに放置するという方も多く見られ、それが癌の発見を遅らせています。
受診したからといって、痔が原因であった場合には、痔そのもので苦痛のない限り激しい治療となることはありません。出血したなら、何はともあれ専門の医師に受診して内視鏡検査を行いましょう。