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患者自ら立つ7
膠原病 谷水典子さん(36歳)
*このコーナーでは、日本慢性疾患セルフマネジメント協会が行っているワークショップ(WS)を受講した患者さんたちの体験談をご紹介しています。同協会の連絡先は、03-5449-2317
現在専業主婦の谷水典子さんは、難病に襲われた後、聞き分けのいい患者として過ごしてきました。でも今は言いたいこと尋ねたいことを医療者に伝えられます。
谷水さんの体に異変が起きたのは、05年冬のことでした。手がこわばる、風邪が治らない、だるい、足がむくむ......。特に手のこわばりが強く、Tシャツを脱ぐのに1時間半かかったり、お米を研げなかったりしました。近所の整形外科を受診したところ、すぐに「ウチでは診られない」と大学病院を紹介されました。1カ月ほどかけていくつかの検査をした後、病名と当座の入院とを告げられました。
短大卒業後に百貨店へ就職し、インフォメーション担当や電話交換業務などをしていたのを、長女の出産を機に退社してから3年経っていませんでした。
症状から容易な病気でないことは分かっていましたが、病名を聞いてもピンと来ず、さりとて病気のことを調べる気にもなれず、入院中に福祉施設勤務の夫と長女が困らないよう準備するのが精一杯でした。
幸い、入院したら薬が劇的に効いて、1カ月ほどで退院できることになりました。しかし、治ったような気になっていた退院説明の際に、紫外線が良くないとか、特有の疲れがあるとか聴かされ、さらに薬をいっぱい飲むので副作用でこんな病気になる可能性があるとズラっと病名の並んだリストを渡され、大きな衝撃を受けたそうです。
もう何もできないんだと思って、紫外線を浴びないように昼間もカーテンを閉め切ったり、日の当たらない廊下でじっとしていたり、ということが3カ月ほど続きました。
自分を変えたい、そんな時に記事を発見
さすがにこのままではいけない、外に出たい、自分を変えたいと思い始めた時、新聞でセルフマネジメントWSの小さな記事を発見します。入院中ですら難病の人と会ったことがなかったので、集まってくるという様々な慢性疾患の人たちがどうやって病気と折り合いをつけているのか知りたいと思い、すぐ申し込みました。
WSの会場は遠く、通うのが大変でした。しかし、週を追うごとにリーダーの醸し出す和やかな雰囲気で居心地良く思えるようになってきました。身近なやりたいことを目標にして実行するアクションプランを達成する度に、自分が自信を取り戻していくのも分かりました。
参加した患者家族の話を聴いて、どうして自分だけ、どうして分かってくれないのと思っていたのが、家族も我慢してくれていたのかな、苦労させていたのかなと気づきました。
ただし受講後すぐに前向きになったということではありませんでした。リーダー研修に誘われ、「ぜひ」と受けましたが、体調が悪くて通うのが精いっぱいだったそうです。
でも、ちょっとずつ、ちょっとずつ、病気とうまく付き合っていけば、生きていてもいいのかな、生きられるんだよね、という心境になっていきました。
そして2年あまり経った時、前回より通いやすい場所でWSが開かれると知って、もう一度受講しようと思い立ちました。自分の変化を確かめたかったのかもしれません。
確かに変わっていました。今にして思うと、1回目は病気を受け入れられない状態で受講していましたが、2回目は受け入れていました。それだけに人の話に得るものが大きかったと言います。
また、医師や看護師から言われることに「ん?」と思っても、「良い患者」でいようとするあまり、聞き分けよく流していたことにも気づきました。受講後、医療者から言われてよく分からなかったことを、どうやって短い診療時間の間に伝えるか考えたり、自分がしてみたいことを尋ねたりするようになりました。考えたら当たり前の話ですが、自分がしたいことを明確にしてハッキリ質問すれば、主治医も丁寧に応じてれました。
今もWSで学んだことは生活に根づいています。以前は、目標を立ててできないと落ち込みました。今は、なぜできなかったんだろう、どうやったらできるだろうと考えられます。だから 新しいことにどんどんチャレンジしようという気持ちになれます。
「病気になって失ったものも大きかったけれど、気づきも大きかったんです。病気を抱えている私だからこそできることもあるんじゃないか、とボランティアをするようになりました。こういう気持ちになれたことがうれしいですね」
ワンポイントアドバイス(近藤房恵・米サミュエルメリット大学准教授) 慢性の病気とうまく付き合っていくには、医療者との良いパートナー関係を作り上げることが大切です。WSでは医療者とより効果的に協力し合えるように、治療に参加する方法を学びます。 病状について一番よく知っているのは患者です。受診の準備として、受診と受診の間の病状の変化や気になることを書いておくと、医師に自分の状態を伝えるのに役立ちます。また、医師の話を正確に理解するために、わからないことを質問したり、医師の言葉を復唱して確かめたりということができます。そうした工夫をすることで、主治医とより良好な関係を築くことができるようになります。